ジフェニルアルシン酸(DPAA)等のフェニルヒ素化合物は、嫌気的な土壌条件で脱フェニルやメチル化を受けることが知られていたが、硫酸還元条件においては比較的毒性が高いとされるチオ化物に変換されることが最近、我々の研究で明らかとなった。これまでにDPAA、フェニルメチルアルシン酸(PMAA)、ジフェニルメチルアルシンオキシド(DPMAO)及びジメチルフェニルアルシンオキシドが硫化水素存在下でチオ化され、それぞれジフェニルチオアルシン酸、フェニルメチルチオアルシン酸、ジフェニルメチルチオアルシン、ジメチルフェニルチオアルシンが生成することが示された。平成27年度は前年の検討でチオ化物が確認できなかったフェニルアルソン酸(PAA)と硫化水素の反応液について分析条件の再検討を行った。その結果、フェニルチオアルシン酸と推定されるピークがLC/TOF-MSによって検出されたことから、PAAも硫化水素と反応してチオ化されうることが確認された。 次にDPAAを添加した土壌(0.5-0.6 mg-As/kg)を用いてイネ栽培試験をポットにて行い、土壌及びイネ植物体中のヒ素化合物を調べた。これまでDPAA汚染水田土壌の主たるフェニルヒ素化合物はDPMAOであったとの報告があるが、本研究の結果、DPMAOに加えてDPTAも生成することが明らかとなった。またイネ植物体中の総ヒ素濃度は、根>葉>茎>玄米の順となり、根では主にAs(V)、DPMAO、DPTA及びDPAA が検出された。茎ではAs(V)が、葉ではAs(V)に加えてDPMAOが、玄米ではAs(V)に加えて低濃度のDPAAとPMAAが検出された。このようにイネ植物体で検出されるフェニルヒ素化合物の種類は部位によって異なった。また、土壌中で生成するDPTAは根のみで検出され、地上部では認められなかった。
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