窒素循環に関与するnirSや硫黄循環に関与するaprAなどの機能性遺伝子のクローン解析を行った結果、白川、緑川、八代海のすべての干潟サンプルにおいて、同種のuncultured cloneが優先種として検出され、元素循環に関与する干潟の微生物相は安定していると考えられた。どのサンプルにおいても硫酸塩還元細菌(SRB)を主とするδ-Proteobacteria綱の細菌が約10%も検出されたことから硫化水素の生成は起こっていると考えられたが、同時に硫黄酸化細菌(SOB)によって硫化水素の酸化が進むために環境悪化が防がれていると推測された。そのことを確認するために、硫黄循環に関する定量的解析を行った。SOBの検出にはaprA遺伝子を、SRBの検出にはSRB特異的な16S rRNA遺伝子を標的とした定量PCRを行い、全バクテリアに対する比率を推定した結果、緑川河口干潟においてはSRBよりもSOBの方が多く検出され、干潟本来の環境が保全されている緑川河口干潟では確かに硫化水素の蓄積は起こらないものと推測された。次に、硫黄酸化細菌の菌種を特定するために干潟底泥からの単離を試みた。硫黄酸化反応が起こると培地のpHが低下することからpH指示薬を添加し培地のpH変化を確認しながら培養を行った。培地に添加する硫黄化合物の種類を硫化ナトリウムやチオ硫酸ナトリウムなどに変化させて集積培養および単離を試みた結果、硫黄源が異なると検出される菌種が変化し、従属栄養型と独立栄養型の両方の硫黄酸化細菌が検出された。また、硫黄酸化細菌群は単純な菌叢ではなく、硫化水素を硫黄元素まで酸化する菌、それをさらに酸化する菌、チオ硫酸塩を選択的に酸化する菌などの多様な硫黄酸化細菌が検出され、干潟底泥で起こっている硫黄酸化反応は多種多様な細菌による複合的な反応であることが明らかになった。
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