コアであるベンゼン環と重合性基を光分解性のアシルオキシムユニットでつないだ三官能型光分解性架橋剤を合成した。この架橋剤とアクリル酸メチルを共重合した架橋フィルムに254nm光を照射すると,アシルオキシムユニットが光分解することがIR・UVスペクトル変化から確認できた。また照射後のフィルムはテトラヒドロフランに溶解してSEC測定が可能となり,その分子量は数万Daであった。 次にこの架橋剤とアクリル酸ブチルを重合して粘着剤を形成し180度剥離試験で引張強度を測定すると,粘着力が高圧水銀灯の照射とともに低下し,光剥離性を示した。 このような解架橋系を長波長光でも達成するため,光分解性架橋剤とアクリル酸ブチルの共重合体溶液に増感剤2-イソプロピルチオキサントンを加え,UVレオメータで365nmのLED光を照射しながら粘弾性を測定した。すると,各粘弾性パラメータは光照射と共に低下し,増感分解が確認できた。また,モノマーであるアクリル酸ブチルと光分解性架橋剤,増感剤の混合溶液の測定では,UVレオメータ中で架橋樹脂形成と光分解の2つの連続した反応を一度に観測することができた。 一方,光極性変換基含有ポリマーについては,合成に至らなかった。特に,メタクリル部位とカルボン酸を光分解性でつないだモノマーは合成者も変えて何度も挑戦したが,精製途中で重合と架橋が起こってしまい,ポリマーへの組み込み等を果たすことが最終的にできなかった。 そこで,光分解性架橋剤の更なる展開を目指し,トルクセノン誘導体をコアとする三官能架橋構造を持つポリウレタン樹脂を合成した。できた樹脂は増感剤なしでも粘弾性パラメータの低下を示し,ポリウレタン系への拡張と長波長感光化に成功した。 以上のように,光極性変換基を組み込むことはできなかったが光分解性架橋剤は目的通りの役割を果たし,光剥離と長波長感光化が達成できた。
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