[平成26年度に実施した研究の成果] 黄砂の輸送量が増大する春季(2012年3月7~20日)に、長崎県平戸市で24時間捕集されたエアロゾル試料を対象にしてLi濃度とδ7Liの日間変動を調べた。エアロゾル試料のCa/Al濃度比とSr同位体比(87Sr/86Sr)は、アジア内陸部の土壌の値に類似していることから、本エアロゾルはそこを起源とする黄砂粒子が主体であることを確認した。大気中のLi濃度は日間で大きく変動していることがわかった。また、1%HNO3可溶性Li(主として炭酸塩や硫酸塩の形態)のδ7Liは、Li溶出率(総Li濃度に対する1%HNO3可溶性Li濃度の割合)の増加とともに上昇する傾向を示した。このことから、そのδ7Liは、黄砂発生地域の土壌特性(乾燥化に伴う地下水上昇と土壌表層での塩の析出)の違いを反映している可能性が示唆される。 [研究期間全体を通じて実施した研究の成果] 本研究では、平成24~25年度に大気エアロゾルの起源となる主要な粉じん(石炭灰、ごみ焼却灰、自動車粉塵、日本表層土壌、中国黄土)について、Li濃度とδ7Liを明らかにした。また、長崎県松浦市で2年間にわたって捕集されたエアロゾル試料の形態別(上記参照)のLi濃度とδ7Liを測定することにより、それらの季節変化を調べた。その結果、冬季のエアロゾル中にLiを著しく濃縮し、かつ大きなδ7Liを有する土壌粒子の存在が示唆された。この粒子は、石炭灰のLi濃度とδ7Liから石炭燃焼起源ではないと判断された。平成26年度には、上述したように黄砂の輸送量が増大する春季に、長崎県平戸市で24時間捕集されたエアロゾル試料を対象にしてLi濃度とδ7Liの日間変動を調べた結果、1%HNO3可溶性Liのδ7Liは、黄砂発生地域の土壌特性を反映している可能性があることから、黄砂の簡易トレーサーとしての利用が期待できる。
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