研究課題/領域番号 |
25340104
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
下家 浩二 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (10351496)
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研究分担者 |
池内 俊彦 関西大学, 工学部, 教授 (20093362) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経突起 / ビスフェノールA / PC12細胞 / 大脳皮質神経細胞 / 甲虫モデル / 極性 |
研究実績の概要 |
本研究における研究対象となる環境汚染物質であるビスフェノールA(BPA)は、PC12細胞に対し神経突起伸長作用を有している他に、細胞体の形態を変化させることを新たに見出した。実験では、PC12細胞に60 μM BPAや、PC12細胞に発現している受容体型チロシンキナーゼであるTrkAのリガンドである100 ng/ml 神経成長因子(NGF)、ヒストン脱アセチル化阻害剤(HDACi)をそれぞれ添加後、24時間でのPC12細胞の形態的変化の比較を行った。その結果、BPAにはNGFやHDACiと比較して、枝分かれが少なく細胞体が極性をもった神経突起を有する細胞へと変化することが明らかになった。また、BPAが有するその突起伸長作用はエストロゲンレセプター拮抗阻害剤ICI18270の添加によって阻害された。更に胎児ラット(E17或いはE18)の大脳皮質神経細胞にBPAを暴露させたところ、PC12細胞と同様に高濃度でアポトーシス誘導作用を有し、低濃度で神経突起伸長を促進する作用を有することが判明した。形態の変化は、有意ではないものの極性化する傾向にあった。以上から、BPAの作用は発生初期段階にある脳神経細胞の分化や形態形成に重大な影響を与える可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、モデル神経細胞であるPC12細胞が環境汚染物質の一つであるビスフェノールA(BPA)が高濃度ではアポトーシスを誘導し、低濃度では神経突起を伸長させる実験結果を踏まえ、分化や形態形成途上の脳・神経系に与える影響を分子・細胞・個体レベルで解析することを目的としている。PC12細胞を用いて得られた結果では、これまで神経突起の伸長作用のみに着目していたが、細胞体の形が細長く変化し、横に長く伸びた先端から突起を伸長させることを新たに見出した。この現象では、細胞に極性が生じ、1細胞あたりの神経突起の数が減少することも明らかにしている。これらの新規知見は、NGFやHDACiを対照として行った実験結果とは全く異なることから、BPAによる神経突起の伸長作用には、細胞内でのNGFやHDACi添加時とは異なる分子機構の存在が強く示唆された。例えば、対照実験では、NGFやHDACi添加時には、Nur77が発現上昇することによって神経突起を伸長させていることを見出しているが、BPAの様なエストロジェンレセプターを介するシグナルによる作用とNur77の発現上昇作用との関連性は見いだされていない。これは、早急に解決させるべき課題であると考えている。BPA単独の作用に着目した場合、この現象は初代培養の大脳皮質神経細胞を用いた実験でも同様の傾向が観察され、神経細胞に対するBPAの作用には一般性があることを証明することが出来た。以上の成果から、脳・神経系を構成している多くの神経細胞群に対してBPAは、神経回路が個体として本来の機能を保持した新たな機能を有する神経回路に変化させることにより、個体として本来のふるまい(行動や志向性など)を異常化させる神経回路へと変化させ得ることを示唆している。その細胞内メカニズムについては、引き続いて研究を実施し、最終目的の個体での解析を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
細胞レベルでのBPAの作用を集中的に解析した結果、多くの現象を見出した。この現象が様々なタイプのエストロゲンレセプターの中で特定のレセプターの関与の有無を明らかにする。さらに、NGFやHDACiによる神経時伸長作用との比較実験を行い、エストロジェンレセプターを介したシグナル伝達によるBPAの細胞内分子機構との違いを見出す。また、個体レベルでは、BPAを給仕投与し、胎児脳内の神経細胞の分化状態や形態変化について解析を行う。それに加え、ラットの行動や記憶の傷害に対する影響の有無も解析を実施する。可能ならば、甲虫モデルを用いた社会性維持について解析を行い、種を越えて幅広くBPAの神経細胞への作用を解析したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
分子生物学的実験において、計画を変更し、購入しなかった試薬があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
分子生物学的実験においては、クロマチン免疫沈降法(ChIP assay)での実験で計画の変更が生じた。具体的には、抗アセチル化ヒストンH3リシン14番目抗体によって免疫沈降させた細胞抽出液から回収したDNAを鋳型としたnur77遺伝子上流配列のバンドの有無の確認実験で、バンドが確認できないことが起こった。1回の実験にかかる費用が高額であるため、問題点を見出す検討を開始し、抗アセチル化ヒストンH3リシン14番目抗体とChIP assay用試薬を改めて購入する。
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