研究課題
基盤研究(C)
本研究は、日本沿岸にストランディングするクジラ、イルカの死因に関連するリスクファクター評価をめざす。本研究では実質的なリスク評価が非常に難しいとされる環境汚染物質(PCBs、DDTs、ダイオキシンなど)の生物濃縮によるリスク評価に焦点をあてる。平成25年は長崎県周辺にストランディングしたスナメリ25頭について、日和見感染症である「寄生虫感染症」との相関性を検証した。さらに2013年4月26日に鹿児島県南さつま市で発生したスジイルカ53頭の大量座礁に対応し、死亡個体29頭中28頭について国立科学博物館、愛媛大学で冷凍保存後、6月・9月にそれぞれ国内複数研究機関から研究者が参加し体制的な調査を実施した。これほどの規模の死亡個体ほぼ全頭を詳細に調査した例は国内では過去になく、本種の生物学、病理学、さらには汚染実態を解明する上では大変貴重な標本となった。さらに、オウギハクジラ、カマイルカ、ハナゴンドウ、カズハゴンドウなど多くのストランディングにも対応し、病理学データならびに解析検体数を増やした。汚染解析資料は愛媛大学es-BANKにアーカイブ資料として冷凍保存された。ストランディング情報ならびに個体情報は国立科学博物館のストランディングデータベース(http://svrsh1.kahaku.go.jp/marmam/)として公開している。スジイルカについてはすべての病理データをまとめ、汚染レベルとの比較・検討を実施した。その結果、両者に優位な相関性は認められなかったものの、臭素系難燃剤のレベルは優位な濃度上昇が認められ、使用量に伴う生態系汚染の進行をうかがわせる結果となった。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、単独ストランディング個体の対応とともに、スジイルカの大量座礁という非常に珍しいイベントが起きたが、死亡個体のほぼ全て(28/29頭)を回収し、冷凍保存後体制的な調査を実施し、多くの研究機関ならびに研究者の試料として活用することができた。予定外であったが、スジイルカの大量座礁をこのように調査した例は記録としては国内初であり本研究課題の汚染実態の解明にも大きなデータ蓄積となった。カズハゴンドウについても、研究協力を組んでいる愛媛大学のチームが論文化に成功し、業績を上げる結果となった。その他の種についてもデータ蓄積ならびに解析を実施しており、全体として順調に進んでいる。
平成25年度に引き続き、国内のストランディングイベントに対応し、試料収集ならびにデータ蓄積に勤しみ、一般市民への広報活動も行う。今年度はストランディング個体の脳内への汚染蓄積影響を愛媛大学チームと共に解析、検討が可能であるため、そちらにも力を入れる。さらには個体の年齢・性別による蓄積パターンとの比較、種差、地域差なども視野にいれながら、より詳細な解析を実施する。さらに、ハロゲン化代替難燃剤やPFRsなどのPOPs候補物質の分析法を検討し、新規環境汚染物質による汚染実態を病理学データと付き合わせて解明する。
消耗品の支出を抑えることができたので、次年度へ繰り越す。次年度では、消耗品ならびにその他の項目で使用する予定。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件)
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