研究課題
2014年度(平成26年度)も引き続き日本沿岸にストランディングしたクジラ、イルカを調査し彼らの死因に関するリスクファクターの中でも「環境汚染物質の生物濃縮」についてのリスク評価を試みてきた。2014年も引き続き長崎県、熊本県および佐賀県で発見されたスナメリ30頭について、日和見感染症である「肺線虫症」、「肝臓吸虫症」および「翼状洞吸虫・線虫症」との関係性を検証した。さらにカマイルカ、コマッコウ、マッコウクジラ、オウギハクジラ、ハナゴンドウなど多くのストランディング個体を調査し、病理学的データおよび解析個体数を蓄積した。5月にはオーストラリアゴールドコーストで開催された国際水生動物学会(IAAAM)年次大会にて日和見感染症の1つであるイルカの皮膚真菌症について発表した。真菌症も環境汚染物質の蓄積との関係を検討していかなければならないことを教えてもらった症例であった。本症例は論文化も実施できた。6月に開催された日本セトロジー研究会では、年間報告を行い、9月に開催された日本野生動物医学会では海棲哺乳類研究の先進的立場にあるアメリカおよびカナダで活躍中の著名な研究者を招聘することができ、研究成果講演会ならびにストランディング個体調査の実習を行い、非常に有意義な時間を経験した。さらに、1999年から2011年に報告があった120件のオウギハクジラのうち病理学的に調査した44例のまとめを論文として発表することができた。これによって環境汚染物質との相関性を今後検討する素地ができた。ストランディング情報および個体情報は引き続き、国立科学博物館ストランディングデータベース(http://svrsh1.kahaku.go.jp/marmam/)に随時アップしており、汚染物質サンプルは共同研究を実施している愛媛大学es-BANKに冷凍保存されている。
2: おおむね順調に進展している
本年は成果発表を多く実施できた。学会参加や発表もできたが、特にストランディング個体の皮膚真菌症ならびにオウギハクジラの総まとめを論文化できたことは非常に大きな成果となった。ただ、ストランディング個体の脳への環境汚染物質の影響を検討したいのであるが、新鮮個体に遭遇する機会に恵まれることは通常非常に少なく、2014年も多くはなかった。来年度も引き続き個体数の蓄積に勤しむ。その他の種については順調にデータ蓄積ならびに解析を実施しており、全体としては順調に進んでいる。
最終年度となる今年はさらなる研究成果の学会発表ならびに論文化に従事する。特に今年は2年1度開催される国際海棲哺乳類学会が12月にサンフランシスコで開催されるため、そこでの発表を行う予定である。さらに今年3月に茨城県鉾田市で大量座礁したカズハゴンドウの個体も156頭中33頭ではあるが保存することができたため、このカズハゴンドウについても本研究の課題の解析を進め、過去に起こったカズハゴンドウの大量座礁との比較、検討を実施する。そして日々起こっているストランディングについては可能な限り対応し、データおよびサンプルの蓄積を継続する。
物品費を抑えたため、次年度に回す繰越し金が生じた。
次年度は解析のための人件費、謝金、調査費に当てる。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (5件) 図書 (1件) 備考 (2件)
J. Vet. Med. Sci.
巻: on line ページ: 00-00
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10.1292/jvms.13-0454
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鳥取県立博物館研究報告
巻: 51 ページ: 59-65
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巻: 54(1) ページ: 1-4
http://svrsh1.kahaku.go.jp/marmam/
http://svrsh2.kahaku.go.jp/pictorial_book/