研究課題/領域番号 |
25340107
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
井田 秀行 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (70324217)
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研究分担者 |
土本 俊和 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (60247327)
梅干野 成央 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (70377646)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 古民家 / 伝統利用 / 里山林 / 古材 / 樹種組成 / 豪雪地 / 木造民家 / ブナ |
研究実績の概要 |
伝統的木造民家(以下,古民家)を構成する資材の植物種の組成は,民家周辺の植生景観,ひいては里山の植物資源の利用形態を反映していると考えられる。本研究の目的は,古民家の資材供給源としての里山の植生管理に関する伝統的知識を解明することである。 H27年度は,豪雪地の古民家の木材利用に関する伝統的知識を把握するため,長野県北部の7集落に建つ計10棟の古民家(築年数100年以上)を対象に,構造材の樹種組成を分析した。その結果,民家1棟当たり半数以上の構造材(柱・梁・桁)から採取した木片組織の観察により,3~8樹種/棟,計15樹種が同定された。構造材の樹種はいずれも,現在,当該地域の二次林に一般的に出現した。このため,かつて用材を近くで得ていたとすれば,それぞれの民家が建てられた当時から近年まで周辺の植生は持続的に利用され,同様の樹種組成が維持されていた可能性が高い。構造材にみられた顕著な地域差はブナ材利用の有無であり,ブナ大径材の使用は長野県北東部特有の建築様式であることが示唆された。 また,古民家から得たブナ,ナラ属,トチノキ,スギの古材を対象に,曲げ試験による強度,含水率,密度を測定し,それぞれについて新材(文献値)と比較し,樹種別の強度評価を行った。その結果,古材の強度は新材よりも増していることが明らかとなった。とりわけブナとナラ属においては,経年による顕著な強度の増加が示唆された。また,古材・新材間の強度の差異は,密度や含水率だけではなくセルロースやリグニンといった組織成分の増減,結晶化度の増加などの質的な変化も要因となっている可能性がある。 積雪圧が高く豪雪地で優占林分を形成しやすいブナやナラ属が,民家の構造材としても雪の荷重に対して高い強度を発揮する可能性は十分にある。特に雪の多い集落ではこのことが自然環境に適応した伝統的知識として定着していたと推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
民家の構造および樹種組成の把握に関して,科研期間での当初予定の全9棟を上回る10棟の調査を終えることができた。 また,当初,具体的な調査項目に挙げていなかった古材の強度についても調査機会を得て,成果を出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
植物資源の持続利用を基盤とする里山の伝統的知識の体系化を行うための補足調査を実施する。 これまでのデータを総括し、伝統的木造民家の樹種組成などの形態を体系化する。また,資材供給をめぐる里山の伝統的知識について生態学的および建築史学的な評価を行う。
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