研究実績の概要 |
われわれが単離した,セルロースやアルギン酸など10種類以上の多糖類を分解することができるスーパー分解菌Saccharophagus属(Myt-1株)を用いて,廃棄海藻を減容化するとともに,海洋バイオマスとして再活用化する方法を開発することを研究の主目的とした。平成26年度の実施状況について以下に報告する。 まず, 平成25年度にショットガン法によって同定したalgMytCとcelMytBについて, その発現産物のさらなるキャラクタリゼーションを行った。その結果, AlgMytCは,その至適pHは9.0と非常に高く, 至適温度も40℃と高温で, 様々な界面活性剤に対して高い安定性を示した。また, TLCで解析した結果, AlgMytCはアルギン酸を単糖, 二糖, 三糖に分解することが明らかとなった。一方, CelMytBは,指摘pHは7.5で,至適温度が55℃と高く, 様々な界面活性剤に対して高い耐性を示した。また, TLCの分析結果より, セルロースをグルコースとセロビオースにまで分解することが判った。さらに, 次世代シークエンサーによる解析から, Myt-1株はそのゲノムDNA中に,93種類もの多糖分解酵素遺伝子を持っていることが示唆された。そして, その内のアルギン酸リアーゼ (algMytD ) の,大量発現系の構築と精製で得られた産物(AlgMytD)を分析した結果,これまでに4報しか報告例がないPL family17に属し, 至適温度が55℃と高い酵素であることが判った。従って,以上の酵素類は, 化粧品製造やバイオエタノール産生などの産業に応用できることが期待された。さらに, Myt-1株によるワカメ藻体の分解産物が抗酸化能を有するかどうかをDPPHラジカル消去活性によって検証したところ,培養2日目の試料で約40%のラジカル消去活性が示され, ワカメ分解産物の機能性素材としての利用に期待が持たれた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,さらなる酵素のクローニングとそのキャラクタリゼーションを行うことと,藻体分解によって産生された各種オリゴ糖を含む溶液をメタボ発症マウス(TSODマウス)に投与し,糖尿病,高脂血症,肝腎障害などの発症の抑制や軽減などの効果を観察することなどを計画したい。さらに,下記の諸実験にも着手することを考えている。Sacchaophagus属の分布域を調べるために, ワカメ藻体を含んだ人工海水 (ASW) 培地による培養法と16S rRNA遺伝子を標的としたPCR-DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法によって, 富山湾沿岸域の海水や海底堆積物などの試料中からSaccharophagus属の検出・分離を試みる。セルロースやデンプンなどを分解して産生したグルコースの利用を想定して,海産の酵母を単離する。それら酵母を用いた発酵で,産生されたアルコール量を定量する。海藻藻体を分解して得られる海藻の単細胞体を,ウニのプルテウス幼生に投与し,餌料としての効果を検証する。
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