本研究課題は,福井県における放鳥にまつわる諸問題を研究することを目的とする.主な内容は,1)コウノトリの放鳥予定地の環境分析,2)コウノトリの 野生復帰のための環境保全活動が,住民の意識にどの程度影響を及ぼすかの二つである. 平成 29 年 10 月,福井県内で二度目となる人工飼育コウノトリの放鳥が同県越前市で実施された.平成 31年春には野外個体のペアによる産卵が確認されており,保全活動は順調に進捗していると思われる. 1)越前市を中心として,福井県内は里山環境に優れており,ドジョウ,カエル類などの水田性水生動物類の多様性は高い.平成30年度の調査でも,それは裏付けられた.しかし,以前に放鳥された個体が福井県内に完全に定着したとは断定できない状況である. 2)平成30年度も他県でのコウノトリの飛来や営巣が新聞やニュースによって全国に報道されている.申請者による各地での新聞報道の分析から,コウノトリに対する関心は全国規模となっていることが明らかとなった. その一方で,コウノトリに対する過剰な愛着は地域住民のみならず,行政の施策にも反映されていることが明らかである.平成 30 年度もその傾向に変わりはない.具体的には,環境保全行政のマンパワーや予算がコウノトリに集中しすぎるといった弊害が目立つ.平成 30 年度から,県環境基本計画にも明記された,三方五湖でのミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)の根絶事業が始まった.コウノトリ保護を発端として,今後は人を引き付ける外見を持たない動植物に対しても,きちんとした環境教育を行い,それらの保全活動を進展させることが求められる.
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