研究課題/領域番号 |
25340141
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉野 章 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (80240331)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 環境意識 / 環境配慮行動 / 消費者行動 / 潜在クラスモデル |
研究実績の概要 |
平成25年度の研究で、環境に関わる消費者の意識と行動を、主にアンケート調査に基づき、定量的に把握する場合、データ収集において、直感的であったり、具体的な質問を多様な聞き方で繰り返すことが必要だが、それに対応した解析手法の開発が求められることを明らかにした。 本研究では、これに対応する分析手法として、(1)潜在クラスモデルの効果的利用と、(2)コンジョイント分析の代替的手法の開発の2つをあげており、本年度は主に(1)を中心に研究を進めた。 その結果、潜在クラスモデルを効果的に利用する方法として、第一に、潜在クラスモデルではクラス数決定問題と呼ばれる未解決の問題があり、AIC、BIC、Ajustied BIC等を判定指標と、ブートストラップ法に基づく尤度比の差の検定(BLRT)法についてのその有効性の比較研究が行われており、現在のところ、BLRT法、続いてBICが有力視されている。しかし、どの方法が有効かは、標本規模と真値であるクラス間の顕在変数の関係により異なり、本研究のように、多様な質問を重ねた意識調査の結果を解析する場合には、傾向が現れない失敗した質問や、2つのクラスの回答が入れ子上になった関係の識別など、問題を特定化して評価すべきことを明らかにし、その上で、BLRTやBICが必ずしも適切な方法とはいえず、むしろAICかAjusted BICが有効となる場合があることを明らかにした。 第二に、潜在クラスモデルを用いて、アンケート調査結果の回答パターンを解析する場合、結果の解釈が難しいクラスがいくつか抽出される可能性があるが、これを「例外的なクラス」として、それに続く分析から除外することの有効性を指摘した。 第三にに、クラス識別において、有効となる顕在変数(質問項目)とそうでないものの識別方法について検討をすすめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究課題のひとつである潜在クラスモデルの効果的利用について研究をすすめたが、その最終目標は、研究者が一般消費者の環境意識や環境配慮行動についてのアンケート調査を行い、その定量的評価を行う場合、非線形的な関係や部分的な関係性を分析できないこれまでの多変量解析や回帰分析中心の分析を脱し、「回答パターン」を抽出することの重要性を知ること、そしてその回答パターンをうまく抽出するには潜在クラスモデルをどのように利用すればよいかという手順またはガイドラインの作成である。本年度の研究を通じて、そのために必要な知見は概ね得られたと評価している。 ただし、潜在クラスモデルの未解決課題であるクラス数決定問題において、当初予定していなかったBLRT法の有効性を主張する論文を発見したため、これを検討すべく、BLRT法による解析を組み込んだソフトウエアの入手と利用方法の習得、他の判定指標に比べ著しく計算時間を要するこの方法を用いたテストの反復などで、想定していた研究時間を大幅に超過した。このため、今年度予定した研究成果の発表まで間に合わなかった。この点は、次年度早々に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、まず、平成26年度の研究成果をとりまとめ、消費者の環境意識や環境配慮行動のパターンを、アンケート調査結果から潜在クラスモデルを使って抽出するまでの手順またはガイドラインとしてとりまとめる。そして、その手順に沿って、すでに他研究で収集したアンケート調査結果を分析することで、その有効性を示す予定である。 続いて、本研究の第二の課題である、コンジョイント分析の代替的手法の開発にとりかかる。従来のコンジョイント分析は、調査対象の負担から、評価属性が2~3個に限られ、アンケート調査ではその利用が限定的であった。しかし、本研究では、評価属性を10個以上に拡大しながらも、回答者にとっては負担が小さく、直感的に回答できる方法を開発する。 手順としては、すでに、データ収集方法とその解析方法についてのアイデアはあるので、真値がわかっている人為的なデータについて解析しながら、その再現性を評価するとともに、修正・改善を行う。 続いて、他研究で収集したデータをこの手法で分析し、その有効性を検証する。 また、年度後半では、本研究の成果をふまえた、消費者の環境意識や環境配慮行動を分析するためのアンケート調査の設計、実施、並びに解析を行い、その有効性の検証を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の大半は、アンケート調査の実施に関わるその他経費とデータ入力に関わる人件費である。本年度は、研究の大半を理論的分析と人為的データを使ったシミュレーションに費やし、多くの成果をえることができた。また、実証的データについても、これまで他研究で行ったアンケート調査データの蓄積があり、それを利用することができたため、本研究費での支出は行わなかった。そのように研究費を節約した目的として、本研究費の有効活用を検討した。すなわち、当初から本研究費で行うアンケート調査は、本研究の成果を検証するために使う予定であったこと、並びに、本研究で行うような調査は、多面的で数多くの質問項目を設定する必要があり、アンケート回収率は低くなりがちで、当初予定したように各年度で小規模なアンケートを繰り返すよりも、まとめて大規模なアンケートを行った方が有効であると判断したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度前半までに、消費者の環境意識と環境配慮行動を分析するための手法の開発を行い、その手法を検証するためのアンケート調査を実施する。 アンケート調査は、郵送形式で、規模としては1万部程度を配布し、2000部弱の回収を予定している。研究費としては、その大半をアンケート調査票の作成・印刷、郵送、回収、回収された調査票のデータ入力・整理に関わるその他経費並びに人件費にあてる予定である。
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