研究課題/領域番号 |
25340141
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉野 章 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (80240331)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 潜在クラスモデル / コンジョイント分析 / 環境意識 / 環境配慮行動 |
研究実績の概要 |
環境意識や行動をアンケートを通じて把握するための方法の開発を行ってきた。平成27年度は、消費者意識を類型化する潜在クラスモデルの有効的利用について検討し、沖縄県糸満市で計画されている下水処理水をろ過・殺菌して農業に再利用する再生水事業に対する消費者のリスク認知のパターン抽出に成功したが、本年度は、もう一つの課題として進めてきた選択行動の分析手法を同じ糸満市の再生水事業の計測に利用し、その実証的検討を行った。すなわち、再生水を利用して栽培した野菜に対する消費者の購買意欲を調べるために、アンケート票上で、通常売られている産地や栽培方法の異なる野菜を価格とともに並べ、買いたい順番を答えさせる。そこから得られた複数の価格条件と選好順位データをもって選好パラメータを計測するというものである。これは従来のコンジョイント分析のような回答者への大きな負担はなく、信頼性の高いデータが得られると期待される。このデータをもとにランク・ロジット分析を行ったところ、代表的個人を仮定した一括推定では、300程度の調査規模で統計的に信頼性の高い結果を得ることができた。続いて、同じ考え方で、階層ベイズモデルを使って個人ごとの推定を行ったが、これについては、統計的な不確実性が高く、有用な情報は得られなかった。そこで、選好順位データには一定のパターンがあることに着目し、ここでも潜在クラスモデルを使い、選好順位のパターン訳を行い、各パターンをとる回答者グループを単位とした階層的ベイズモデルとして計測した。その結果、統計的に安定した結果が得られ、消費者行動の類型化も明確なものになった。手法の開発としては、これをもって一定の完成形が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題である消費者行動分析の分析手法の開発そのものは、おおむね順調にすすめることができたが、幸いなことに、沖縄県糸満市のアンケート調査を、現地の協力があり、ほぼ無償で実施することができ、そのために準備していた予算を、一般的な環境意識の把握に利用することが可能となった。このため、調査計画を再検討し、当初予定していた調査よりも大規模・広範囲なものに変更することにした。このため、調査の準備が平成28年度内に間に合わないことになり、平成29年度に持ち越すこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度で完結しなかった大規模アンケートによる消費者行動の分析手法の実証的検討を実施する。平成25~26年度において、社会心理学で行われている消費者の環境配慮型行動分析を批判的に再検討してきたが、その検討結果を、公共交通機関の利用を事例に、全国規模のアンケート調査を行い、これまで開発してきた分析手法を使って分析し、その有用性を示す。また、平成27~28年度には、沖縄県糸満市で行った再生水に対する地元消費者の意識を調査し分析したが、再生水の話題をやや一般化したうえで、これについても全国規模のアンケート調査を実施し分析する。これらの成果は、これまで開発してきた分析手法とともに、学会誌に論文として順次投稿していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、沖縄県糸満市でのアンケート調査に研究費の大半を使用する予定だったが、幸い、現地の協力により、ほぼ無償でこれを実施することができた。このため、最終的に実施する予定だった環境配慮型行動に関するアンケート調査を、大幅に規模を拡大して実施できることになった。沖縄県糸満市でのみ行う予定だった再生水利用に関する消費者調査も、内容を一般化して全国規模で行うことも可能となった。しかし、その予定変更を平成28年度内で行うことができず、アンケートの調査のために確保されていた予算の大半を平成29年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に計画していて、規模を拡大して実施することになった環境配慮行動に関するアンケート調査を早々に実施する。また、沖縄県糸満市で実施したアンケート調査の調査票の内容を見直し、全国規模で実施する。平成29年度に繰り越された研究費のほぼ全てはこれに費やす予定である。
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