26年度までの研究で、里海組織や活動内容の発展過程の観察から、地域レベルのボトムアップ型アプローチと都道府県が主体となるトップダウン型アプローチ、構成員の活動の連結や支援を行う支援型アプローチがあることが判明した。27年度の研究では、これらを階層的に組み合わせた多段階管理のシステムによって里海を核とした沿岸域管理が可能になるという仮説を構築した。 地域レベルのボトルアップ型アプローチは、浦や小湾の目に見える範囲の里海を支えるもので、ネットワーク組織によって地域あげてのアプローチをとる。これが里海による沿岸域管理の最も重要な構成単位となる。目に見える範囲の里海では広い範囲の沿岸域をカバーすることができないが、このような里海を有機的に連結すればより広い範囲をカバーすることが可能になる。27年度の調査では、このような取組みの事例として岡山県の海洋牧場構想や兵庫県の海洋保護区を調べた。これを里海ネットワークとする。 これでも沿岸域の環境保全や国土保全といった沿岸域インフラはカバーできない。これらは大村湾(長崎県)のような都道府県によるトップダウン型の全政府あげてのアプローチによって供給される。さらに、このアプローチの弱点である取組み間の連携は、香川県のような支援型アプローチによって促進される。 都道府県の管轄範囲では、このような里海、里海ネットワーク、都道府県による沿岸域インフラ供給の組合せという多段階管理の仕組みによる管理が有効である。都道府県を超えた海域では、沿岸域インフラを都道府県の連携によって統合的に供給し、個別海域ではそれぞれの条件に対応した里海と里海ネットワークによって管理するという方法が考えられる。以上が、沿岸域の多段階管理仮説の骨格である。
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