研究課題/領域番号 |
25340153
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研究機関 | 流通科学大学 |
研究代表者 |
酒井 彰 流通科学大学, 総合政策学部, 教授 (20299126)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コミュニティ / 自立的管理 / 水供給 / 衛生 / ベンガル地域 / 管理組織 |
研究実績の概要 |
調査対象地区として、①バングラデシュ・ジョソール県、②インド・西ベンガル州・カリヤニ市郊外、③バングラデシュ・クルナ県、④バングラデシュ・クルナ市内の都市スラム地区を選定している。①②は地下水ヒ素汚染地域、③は沿岸域で地下水の塩水化が進んでおり、いずれも安全な飲料水確保が喫緊の課題となっている農村域であり、コミュニティ型水供給施設としてポンドサンドフィルター(PSF)が、海外技術援助により導入されている。④では、共同トイレ及びそのし尿処理設備であるセプティックタンクがほとんど維持管理されていない状況であったが、新たにトイレを更新するとともにし尿処理設備としてバイオガス反応槽が導入された。 いずれの地区もCBO(Community Based Organization)が組織され、それぞれの施設を管理することになっているが、管理状況には大きな差がある。住民の利用状況に関しても競合する飲料水減の有無や施設の効用に関する周知の程度によって差が大きい。 平成26年度においては、①②④の動向をフォローするとともに、③の2つの地区で同一様式のアンケート調査を実施した。この2つの地区では、パイプ給水で地区内の複数の蛇口まで給水されており、導入されている技術システムも導入事業者も同じありながら、ひとつの地区では、料金徴収が徹底せず、利用者が限られている。相違を生じさせた要因としては、CBOの成立過程、メンバーの選出方法、施設の効用に関する周知の程度などがあげられ、さらに、周囲の人を信頼できるか、人は利他的に行動すると考えるかといった意識においても違いがみられ、多くの住民が利用している地区では、周囲の人は信頼できる、人は利他的行動をとると回答する住民が多い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
地区①②では、池の提供者の水源汚染につながるような行動や別の水供給施設の導入といったそれぞれの地域の固有の事情によって、管理組織としてのCBOが機能せず、利用する住民が減ってきている。こうした点も自立的管理を妨げる要因には違いないが、失敗例として分析の対象になりにくく、その対応に苦慮した。沿岸域の調査(地区③)では、バングラデシュ全土において野党によるホルタル(ゼネスト)が行われ、政情不安な状況が続き、移動が制限されることが少なくなかった。また、この理由から、現地での研究協力者との連携がうまくいかなかったことも遅れの理由としてあげられる。地区④(都市スラム)では、平成27年4月以降、施設をスラムCBOに移管したが、移管後の管理体制について、CBOとプロジェクト実施者間で十分な合意が得られていない。 全般的に、調査対象コミュニティ施設の導入時期が新しいものが多く、管理状況、コミュニティ施設の利用状況が安定していないために、個別事例のフォローに追われたことが、遅れの理由であるが、その過程で得られた知見をもとに施設導入にあたっての必要事項を抽出していくつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
導入されたコミュニティ施設及びそれを管理するCBOに対する住民を対象にした意識調査を継続しつつ、意識調査結果に対しヒヤリング等で結果を補完するとともに、4つの調査対象以外も含め、他の失敗事例を収集する。 コミュニティ施設の自立的管理を進めるためには、利用ニーズが維持され、管理者は利用者から適正管理を促されている状況が必要条件となる。こうした必要条件の維持に求められる要因、維持を妨げる要因、要因相互の関係を整理し、自立的管理の形成に向け、どのような自助的行動、外部からの働きかけを明らかにする。また、平成26年度、沿岸域の2つの地区での比較から、多くの住民が利用し続けている地区とそうでない地区の相違を説明する要因として抽出された信頼にかかわる住民意識が、コミュニティ施設の自立的管理の形成にどのようにかかわるのか考察する。 平成27年度後半では、草の根の開発援助を有効かつ持続可能なものにするための必要情報の共有と伝搬を意図して、ワークショップを開催し、コミュニティ施設の自立的管理の成立を促すうえで、地域コミュニティに求められる責務、外部者の関与の内容、支援の提供方法について広く意見を求める。ワークショップでの議論も踏まえ、コミュニティ施設の管理を担う管理組織が地域コミュニティの構成員との信頼関係を構築していく上での必要事項を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの達成度でも述べたように、バングラデシュで政情不安な状況が続いたため、現地研究協力者によるアンケート実施、分析が滞り、謝金の支払いができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度、現地での調査実施体制を立て直し、遅れた調査を実施するとともに、謝金の支払いを進める。
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