本研究では、地域特性や伝統的な民家・集落の特性の異なる5地域(茨城県南地域、福島県会津若松地域、福島県阿武隈地域、長崎県対馬地域、鹿児島県奄美地域)を調査対象地域として選定している。最終年度である平成27年度については、福島県会津若松地域、福島県阿武隈地域、および長崎県対馬地域の3地域を中心に研究を遂行した。福島県会津若松地域については、集落規模での屋敷森の近年における変化と維持・継承の実態に関する調査・分析を行い、研究成果を査読付き論文として取りまとめた。屋敷森配置と集落形態の関係について分析し、集落外縁に集中して屋敷森が列状に配置される場合(路村・外縁配置)は屋敷森の減少が特に大きく、屋敷森が外縁に集中せず分散して配置される場合(分散配置)は屋敷森の減少が少ないこと等を明らかにした。また、分散配置の代表事例として二日町集落を取り上げ、集落構成原理と屋敷森の防風効果について調査・分析を行い、査読付き論文として取りまとめた。福島県阿武隈地域については、田村市船引町小沢地区を具体的な調査対象地域として選定し、付属屋の配置や土地利用の変遷等について調査・分析を行った。その結果、昭和30年代頃までは植物資源の循環利用に基づく暮らしが営まれていたことや、生業の変化が付属屋の配置をはじめとした集落空間構成に大きく影響を与えていたこと等が明らかとなった。また、日当たりや風通しの良い場所にタバコ乾燥小屋が建てられる等、付属屋の配置はそれぞれの機能に適した微気候特性を考慮して選定されていることが、小気候観測調査によって実証的に明らかになった。長崎県対馬地域については、対馬市久根田舎集落を具体的な調査対象地域として選定し、小気候観測調査に基づき集落内の石屋根のコヤの配置特性について分析を行い、群倉が集落の風上側に位置すること等を明らかにした。
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