本研究の目的は、ミース・ファン・デル・ローエがベルリン時代に設計した建築の平面図や立面図、断面図などを幾何学的に分析し、その空間のつくり方を明らかにすることである。 最終年度である平成28年度は、エスタース邸とランゲ邸の1階平面図と2階平面図を、アーカイブに残された図面と、現地での実測をもとに作成した。さらに、それらに描かれた平面構成要素ともっとも良く一致するグリッドシステムを見つけ、フレームを使って幾何学的な分析をおこなった。また、デ・スティルの絵画と煉瓦造田園住宅との関係を分析した。それらの結果を、日本建築学会の国内と海外で、論文投稿と口頭発表をおこなっている。 具体的には、長期休暇を利用し、ドイツのクレフェルトにあるエスタース邸とランゲ邸を調査し、壁の厚さや間隔、開口部の巾や煉瓦のサイズなどを巻尺を使って採寸し、アーカイブに残された図面との違いを確認し、平面図を作成した。また、ミースが設計した工場が近くにあり、この建築の予備調査もおこなった。 エスタース邸とランゲ邸を分析した結果、図面には描かれていないが、1.1m(または0.55m)をモデュールとするグリッドシステムが存在し、これにそって壁や開口部など構成要素の位置が決められていることを指摘した。さらに、これら構成要素は正方形やダブルスクェアなどの幾何学的なフレームで関係があり、複数のダブルスクェアが入れ子となり、建築が構成されている。 1.1mのモデュールは、バルセロナ・パヴィリオンやトゥーゲントハット邸と同じで、石のサイズで決まったと言われていたが、エスタース邸とランゲ邸の分析により、石ではなく煉瓦のサイズが基準となり決められたことがわかる。また、デ・スティルの絵画ロシアダンスのリズムと煉瓦造田園住宅案とは、構成要素の配置が整数比の比例分割によって決められていることなど、密接な関係があることも指摘した。
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