日本三大玉露茶の生産地である静岡県藤枝市岡部町において、同一の対象者と世帯を1982年から2014年の32年間にわたって追跡し、茶生産の盛衰に揺れ続けた農村家族の世代更新の軌跡と農村女性のライフコースの変容を明らかにした。 1982年、1993年、2005年、2014年の追跡調査から、239世帯の4時点パネルデータを一部の分析が可能なところまで完成させた。第1回調査を実施した1982年に30~59歳だった対象者は、第4回調査の2014年には63~90歳となった。本分析から次の点が明らかになった。(1)対象者世帯のうちで子や孫が結婚後に同居して対象者世代の次の世代または次の次の世代を更新した「子・孫世代更新世帯」が4割を超えた。ただし、世代更新は1993年までは活発であるが、2005年以降は停滞しており、結婚時期の遅い対象者ほど世代更新の実現は難しくなっている。(2)対象者が未婚子と同居している「更新未確定世帯」は、2005年以前は子世代の進学・就職・結婚による他出や子どもの結婚同居によって減少しているが、近年は子世代の結婚難により横ばいとなり、2014年の同居未婚子の平均年齢は46.6歳、未婚子の36.0%が50歳以上と極めて深刻な状況を呈している。(3)子世代が他出して「夫婦のみ」または「単身世帯」へと移行した「更新困難世帯」は、14年に27.6%と3割弱を占めている。 これまで農村地域では、長男夫婦による結婚当初からの一貫同居と農業経営の継承によって直系家族制が維持されてきた。しかし、中山間地域の農村家族でも2000年以降は、子世代の大学進学・就職・結婚などによる「離家」が一般的になっており、子世代や孫世代の「帰家」(再同居)、調査地域以外への子世代の「呼び寄せ同居」が、直系家族制度の持続、直系家族の形成と世代更新に大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。
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