幼児期の保育は環境を通して行うものであることから、保育環境をいかに整えるかは保育にとって最も重要な課題である。子どもを取り巻く保育環境の中で家族はきわめて重要な環境であり、幼児期の発達は「家庭生活」の場において「家族」という人間関係の中で、幼児と家族員との相互作用のもとに行われている。本研究は、育てられる側の視点に立った保育環境について、なかでも人的環境として重要な家族についての検討を試みた。 その結果、子ども回答からは家族を気づかうことができる子どもは親が一緒に遊んでくれたり話を聞いてくれる時に嬉しいと思っているが、一方、家族への気づかいの弱い子どもは家庭生活の中の嬉しい場面の嬉しい程度も、嬉しくない場面の嬉しくない程度も概して低いことが明らかとなった。また、子どもが嬉しいと思う場面については母親は的を射て捉えているが、嬉しくない場面については子どもと母親の認識の間に違いがあることが見出された。 したがって、子どもにとって嬉しくない場面である「一人ぼっちの時」の心細さや「家族が喧嘩している時」のやるせない気持ちに対して、育てる側が思いを馳せることが重要であると言えるだろう。すなわち、育てる側は子ども自身が生きている世界について想像して、子どもの心の状態を適切に感じ取るなど、子どもの心を共有することが重要であることが明らかとなったと言えよう。本研究結果から、育てる側は嬉しい場面については子どもの心に寄り添うことは比較的容易にできるが、嬉しくない場面については困難であることが示唆されたが、子どもは自分の心情を客観化して十分に言葉で表現することは難しく、それゆえ、育てる側が嬉しくない場面についても子どもの心情を洞察して寄り添うよう努力することが望まれる。それは、心理的虐待を防ぐことに向けて保育環境を整えることに寄与すると考える。
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