研究課題/領域番号 |
25350074
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
藤平 眞紀子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (90346304)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 維持管理 / 伝統的木造住宅 / 自助 / 共助 / 公助 |
研究実績の概要 |
伝統的な木造住宅が、その地域で町並みを形成する地域資源として継承されていくためには、所有者の管理だけではなく、地域の人々や専門的技術を有する各種職人、さらには公的なサポートなどの協同が必要であると考えられる。その可能性やあり方を探ることを目的として、平成26年度は以下の検討を行った。 1)検討対象地区における町づくり活動の一つである雛めぐりについて、地域住民の関わり方の変化、住まいの管理への影響について、活動に参加している地域住民へのヒアリング調査および住まいの外観調査、雛めぐり見学より、検討した。 2)重要伝統的建造物保存地区に指定されている県内のG地区において、人々の暮らしとともに変化しながら継承されている木造住宅の維持管理について、文化財指定を受けている住宅を含む9軒を対象として、日常的な維持管理を行っている住み手に対して、ヒアリング調査を行った。 得られた結果は以下のとおりである。1)町づくり活動は地域住民に受け入れられてきているが、協力者の高齢化が進み、次の担い手への継承が課題である。また、雛めぐりをきっかけとして住まいの管理が積極的に行われている住宅がある一方で、生活スタイルの変化への対応から、取り壊しや建替えられる事例が増えており、町並みが変化してきている。2)日常生活の中で連綿と継承されている暮らし方や住まい方に接し、手入れの仕方などが自然に受け入れられていた。また、以前は商業の町として栄えていたこともあり、使用人による日常的な維持管理と出入りの大工など専門家による維持管理がなされていた。一方、近年、出入りの大工の数は少なくなっているものの、専門職人との関係を保ち続ける住み手の対応や、地域の行事を通じた多世代の交流、さらに、伝統的な木造住宅や町並みを継承していこうとする地域住民による町おこし活動に、住まいの維持管理が支えられていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的には、(1)検討対象地区において、住まいの管理と町づくり活動について検討した。また、「伝統的木造住宅における維持管理の変遷と今後の継承 ―ヒアリング調査による維持管理の実態把握と今後の課題―」として、日本家政学会誌に投稿し、平成27年6月号に掲載されることが決定している。この論文をまとめる過程で、対象地区の著しい変化を痛感した。この5年間の住宅の物理的な変化とともに、居住者の生活スタイルの変化、住宅や町並みに対する意識の変化を把握し、経年による変化を考慮した共助、公助のあり方を検討していきたいと考えている。 (2)重要伝統的建造物保存地区に指定されている県内のG地区において、居住者へのヒアリング調査を通じて、居住者による維持管理の実態、継承の様子を知ることができた。地域の行事を通じた多世代の交流とともに、伝統的な木造住宅や町並みを継承していこうとする地域住民による町おこし活動に、住まいの維持管理が支えられていることがわかり、検討対象地区への応用を考える有益な情報が得られた。次年度に発展させ、総括していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
この2年間の調査結果を詳細に検討しながら、対象地区での伝統的木造住宅の維持管理のあり方について検討を進める。平成26年度と同様に、他地域での事例について、情報収集を継続的に行い、現地視察を実行する。その際、維持管理に対する意識やその実態については個々の家庭およびその主な担当者の経験が大きく影響すると予想されるので、一軒一軒のデータを詳細に検討して、事例的な考察を深めたうえで、全体として捉えていく。 また、日常生活の中で脈々と継承されている暮らし方や住まい方とともに、地域の行事を通じた多世代の交流、地域住民による町おこし活動など、地域とのつながりが住まいの管理に影響していることから、対象地区において地域活動を含めて検討を進めていく。さらに、地元の大工や工務店などによる、技術面でのサポートのあり方を検討していく。地域に根ざした業者として、地域とのかかわりを深め、技術の継承にとどまらず、生活スタイルの変化や新しい設備機器などの導入に対応した新しい技術の導入も含めて、若手技術者の養成を見据えた共助のあり方を検討する。 さらに、住み手の自助、地域住民の共助に加えて、公助による住宅の維持管理として、町役場を中心として、地域住民の高齢化のもとでの、支援のあり方、経済的な支援だけではなく、地域住民の意識変革、意識向上につながる仕掛けづくりへの対応について考察を深める。また、先駆的事例地が確認されれば、現地視察なども行い、考察の参考とする。 研究の総括として、住み手の維持管理手法の変遷をもとに、今後の維持管理のあり方を、自助のみでなく、共助、公助との連携をもって検討し、現代的生活に無理のない伝統的木造住宅の維持管理のあり方およびその可能性について考察を深め、地域住民を主体とした伝統的木造住宅の維持管理システムの提案につなげていく。 また、得られた結果を取りまとめ、学会等で成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
他地域での事例について、情報収集を行い、現地視察を実行しているが、日程調整等により、県外の事例について現地視察が行えなかった。また、県内の対象地へのヒアリング調査や見学において、日程調整の都合から、単独で行うことが多く、交通費が予定より抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
他地域での事例調査について、2地域については準備を進めており、実施予定である。また、京都府内で調査対象候補地とのつながりが持て、居住者へのヒアリングが実施される予定である。現地調査実施のための交通費および情報収集のための補助および情報のデータ整理の謝金として使用する。また、本研究課題にかかわる調査結果をまとめた論文が次年度に掲載されることが決定しており、その論文の投稿料および別刷り費用として使用する予定である。
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