伝統的な木造住宅が、その地域で町並みを形成する地域資源として継承されていくためには、所有者の管理だけではなく、地域の人々や専門的技術を有する各種職人、さらには公的なサポートなどの協同が必要であると考えられる。その可能性やあり方を探ることを目的として、平成27年度は以下の検討を行った。 1)検討対象地における住み手が行ってきた維持管理の実態について、5年前または3年前にヒアリング調査を行った家屋を中心に、近年の変化を調べた。2)検討対象地域を中心に住宅の補修や改修等に携わっている地元工務店の代表3名に、伝統的木造住宅の維持管理における専門家としての役割についてヒアリング調査を行った。3)空き家の管理について、地域としての関わりの可能性を地域住民への意識調査より検討した。 得られた結果は以下のとおりである。1)居住者の高齢化や家族人数の減少は進行し、母屋を日常的に使用していない家屋もあった。家屋内外の段差について、慣れのため不自由に感じていない高齢者がいる一方で、病気や怪我をきっかけに、可動式手すりの活用や寝室の場所の変更などが行われている。また、建替えを行った、建替えを検討している例もあり、同居家族や後継者への配慮が強く影響していることが明らかとなった。2)調査対象地域では、住み手が住宅の手入れを丁寧に行い、傷むとしっかりと直していたが、近年では、住み手が手入れを行わなくなり、若い世代は木材の使用を嫌う傾向ある。一方、伝統的な木造住宅を維持していく上で、住み手の経済的負担とともに、木材の性質を知って、扱える若手職人がいないことが危惧されている。3)空き家が増加していると感じている居住者は多く、空き家の管理に対する意識は高い。地域としての関わりにはやや消極的な意見が多く、地域として関われる内容の整理などが必要であることが明らかとなった。
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