最終年度では、これまでの実測によって得られた日傘下およびその周辺の熱環境データを用いて、頭部、頭部以外の部位(胴体)、および全身の体感温度を算出した。実測に用いた日傘は、一般に市販されている素材および色の異なる7種の日傘である。その結果、日向において日傘を差さないときの体感温度は平均40.2℃であるのに対して、日傘を使用したときの体感温度は38.3~39.1℃であった。したがって、日傘を使用することによって、全身の体感温度が1~2℃低下することを明らかにした。特に、頭部の体感温度は日傘を使用することによって、3.9~9.3℃低下した。 現在、熱中症予防の観点から暑熱環境を評価する際、黒球湿球温度WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)を用いることが多い。そこで、本研究でも日向および日傘下のWBGTを実測し、日傘による熱中症危険度の改善効果を検討した。測定はISOおよびJISに規定されている方法に従い、地上から0.1m、1.1m、1.7mの高さで実施した。その結果、日傘直下ではWBGTを最大で2.0℃低下させる効果があることを明らかにした。 研究期間全体を通して所期の目的を達成することができたと考える。まず、素材および色の異なる日傘下に形成される熱環境を実測し、日傘の短波長および長波長放射の遮蔽効果を定量的に示した。次に、日傘使用時の体感温度の算出法を確立し、実測データを用いて日傘使用時の体感温度を算出した。さらに、被験者を用いた実験を行い、日傘による暑熱感覚の緩和効果を明らかにした。また、日傘下のWBGT値を実測し、日傘による熱中症危険度の低減効果を示した。これらの研究成果は、屋外暑熱環境における人々の安全性および快適性の向上に資するものであると考える。
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