研究課題/領域番号 |
25350090
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
菅原 悦子 岩手大学, 教育学部, 教授 (70122918)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 魚醤 / 香気成分 / 風味改善 / SPME / アワビ |
研究概要 |
近年、醸造技術の進歩によってアワビ加工時の廃棄物である肝を用いた魚醤が開発されたが、原料の肝がもつ特徴香気が品質に大きく影響している。そこで、本研究ではアワビ肝醤油としょっつるなど3種類の市販魚醤とを官能検査や香気成分組成の比較を行い、その香気特性を解明することを第一の目的とした。さらに、その加熱殺菌等の条件による香気成分組成の変化を解明し、大豆を用いた醤油との比較により、風味向上の方法を探索することを第二の目的とした。試醸したアワビ肝醤油としょっつるなど3種類の市販魚醤から、SPME法(Solid Phase Micro Extraction)によりヘッドスペース成分を抽出し、AEDA( aroma extract dilution analysis)法により各香気成分のにおい特徴と香気寄与度を評価した。さらに、加熱前後のアワビ肝醤油も同様に分析した。また、香気成分はGC-MSにより同定した。GC-O分析により、アワビ肝醤油から感知できたにおいの数は60種で、3種の市販魚醤から感知できた香気成分数の約2倍多かった。AEDA分析により、アワビ肝醤油からアセ様の3-methylbutanoic acid、煮たジャガイモ様のmethionalと香ばしいカラメル様の2-furanmethanolなど8種のFD-factor(FDf)の高い香気成分を同定した。市販のしょっつるからは3-methylbutanoic acidとmethionalに加え、青葉様の1-hexanolやアセ様の3-methyl-1-butanolなど6種のFDfの高い成分を同定した。アワビ醤油はしょっつるよりFDfの高い成分が多く検出されたことから、においが強いと考えられる。また。アワビ肝醤油は加熱によって、甘い花様の2-phenylethanolなどの寄与度が低下するなど、加熱条件がアワビ肝醤油のにおいに大きく影響することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は計画した課題を以下のように順調に解決したので、研究はおおむね順調に進んでいると評価している。 1.官能検査により、アワビ肝醤油は市販の魚醤よりにおいが強く、独特の海藻の香りなどの特徴的な海鮮を連想させる香りや香ばしい香りを持つことが解明された。 2.香気成分の分析方法を検討し、魚醤の特有香気成分を明らかにし、風味改善を目指すにはSPME法(Solid Phase Micro Extraction)によりヘッドスペース成分を抽出し、分析や比較することが適切であると判断した。この方法を用いて、GC-O分析した。市販魚醤との比較によって、アワビ肝醤油は感知できる香気成分の数も市販魚醤より多いことが解明された。 3.GC-MS及びAEDA分析により、アワビ肝醤油から、アセ様の3-methylbutanoic acid、煮たジャガイモ様のmethionalと香ばしいカラメル様の2-furanmethanolなど8種のFD-factor(FDf)の高い香気成分を特定するなど、主要な香気成分を同定し、その香気寄与度を解明した。 4.アワビ肝醤油は、加熱処理前後で主要な香気成分のFDfが大きく変化した。アワビ肝醤油の香気特徴は加熱条件により大きく変化することが判明し、風味改善には加熱条件の検討が重要であると推察された。
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今後の研究の推進方策 |
1.加熱温度、時間など条件を変化させて、アワビ肝醤油の主要な香気成分の香気寄与度の変化を解明する。特に、アワビ肝醤油の特徴的な香ばしい香りの加熱条件による変化を解明し、アワビ肝醤油の風味改善方法を探索する。 2.アワビ肝醤油に酵母を添加し、再発酵によってアワビ肝醤油の香気成分の組成を変化させ、風味の改善を行う。酵母の種類など種々の発酵条件を検討し、より風味改善に寄与できる条件を明らかにする。 3.新たな課題として、アワビ肝醤油は特徴的な海鮮を連想させる香りを持つことから、その風味を生かしたドレッシングなどの開発も考えられる。そこで、pHの変化によるアワビ肝醤油の風味への影響も解明する予定である。特に、アワビ肝醤油の特徴的な海鮮を連想させる香気成分を保持させながら、風味を低下させているアセ様の香気成分などの寄与を減少させる方法を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画書では、においかぎ装置付きのGCを購入し、新しい装置で分析を行う予定としていたが、配分された金額ではその装置は購入できなかった。そこで、GC分析のデータ処理を迅速に行える装置の購入に変更した。そのため、当初の予定より、支出が少なかった。においかぎ装置付きのGCは、本研究室にすでに1台あり、研究の進行に大きな問題はなかった。 旅費については、年度内に学会発表を行う予定であったが実施できなかったので、2014年度早々の5月に行うこととし、次年度へ繰り越した。 2014年度は、酵母を用いて魚醤を再発酵させる計画であり、培養に必要な装置等の購入を計画している。さらに、旅費としては、研究成果の発表を北九州市で5月に行い、使用する予定である。
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