研究課題/領域番号 |
25350093
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
久本 雅嗣 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (00377590)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ワイン / アントシアニン / ピラノアントシアニン |
研究概要 |
【目的】赤ワインの熟成が進むにつれて色調は赤色から赤褐色へと変化する。それに伴い、赤ワイン中に新たに「ピラノアントシアニン」と呼ばれる赤色化合物を形成する。平成25年度はピラノアントシアニンの合成、耐熱・耐光性及び抗酸化活性を行った。 【方法】Malvidin 3-O-glucoside(M3G)を用いて、赤ワイン中に含まれるピラノアントシアニン(Malvidin 3-O-glucoside pyruvate(Vitisin A))とMalvidin 3-O-glucoside vinylguaiacol (M3G-4VG)を合成し、分取HPLCでそれぞれの化合物を単離し、NMRと精密質量分析より構造解析を行った。化合物の耐熱性試験は50℃で、耐光性試験は色比較・検査用D65蛍光ランプを用いた。それぞれの試験の評価は、Lab色空間(CIELAB, L*a*b*)で行った。抗酸化活性はDPPHラジカル消去活性で評価を行った。 【結果及び考察】M3G及びM3Gより得られた2つのピラノアントシアニンを含む3つの化合物について耐光性を比較した結果、M3Gはa*値が最も減少、L*値が増加したのに対し、Vitisin Aはa*値の減少、L*値の増加が最も緩やかであった。耐熱性においてM3G-4VGは、色調にほとんど変化がなく、M3GとVitisin Aはa*値とL*値が類似した推移で変化した。DPPHラジカル消去活性は、Vitisin Aの活性が最も高く、次いでM3G、M3G-4VGであった。以上の結果より、ピラノアントシアニンはD環の構造の違いによって機能性が変わることが認められた。 今回評価を行ったピラノアントシアニンは、主要なブドウ由来のアントシアニンより色調安定性が高いことから、今までにない新しい特徴を持つ化合物であり、食品をはじめ他の産業への展開が可能と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時の平成25年度の計画として、「1.ピラノアントシアニンの精製・化学構造の決定・合成方法の確立」「2.ピラノアントシアニンの耐光性・耐熱性の評価」「3.ピラノアントシアニンの酸化抑制能の評価」の3項目の実施を挙げた。 「1.ピラノアントシアニンの精製・化学構造の決定・合成方法の確立」に関しては、Malvidin 3-O-glucoside(M3G)を用いて、赤ワイン中に含まれる2つのピラノアントシアニン((Malvidin 3-O-glucoside pyruvate(Vitisin A))、Malvidin 3-O-glucoside vinylguaiacol (M3G-4VG))を化学合成した。分取HPLCでそれぞれの化合物を単離し、NMRと精密質量分析より構造解析の同定を行い、それぞれの目的化合物の生成を確認した。 「2.ピラノアントシアニンの耐光性・耐熱性の評価」に関しては、化学合成した2つのピラノアントシアニンについて、耐熱性試験は50℃で、耐光性試験は色比較・検査用D65蛍光ランプを用いた。色調の評価は、平成25年度物品購入した透過色測定器を用いて、Lab色空間(CIELAB, L*a*b*)で評価を行った。その結果、比較対照として用いたブドウ果皮由来のM3Gは光・熱に対してすぐに分解し、色調が透明になった。それに対し、Vitisin A は光に対して、また、M3G-4VGは、熱に対して色調にほとんど変化がなく、安定な色調を維持することが認められた。 「3.ピラノアントシアニンの酸化抑制能の評価」に関しては、DPPHラジカル消去活性で評価した結果、Vitisin Aの活性が最も強い活性を示し、次いでM3G、M3G-4VGであった。 以上より、平成25年度の計画はおおむね予定通り遂行されたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の実施結果より、今回2つの調製したピラノアントシアニンは、耐光性・耐熱性を有することが認められ、今までにない新しい特徴を持つ機能性色素素材を創出することが可能となった。現在、高機能性で付加価値のある食品の開発が活発化していることから、ピラノアントシアニンはこうしたニーズに対応した製品への適用が可能であると考える。 今後は、ピラノアントシアニンを高効率・大量生産可能な方法を開発する必要がある。具体的にはワイン圧搾残渣から従来の色素よりも発色安定性が高く、抗酸化能を有する機能性色素の生産技術を開発する。 現在、交付申請時の平成26年の実施計画通り、ピラノアントシアニンの生成機構の解析及び高産生条件の確立を行っている。これら課題を解決することにより、従来のアントシアニン系天然着色料では困難であった各種食品の品質が向上し、ブドウを利用した高付加価値のある新たな食品素材技術の創出が可能となり、食品のみならず、創薬、医学への応用も十分に考えられる。
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