研究課題/領域番号 |
25350094
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中本 裕之 神戸大学, その他の研究科, 助教 (30470256)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 食感計測 / フードテクスチャ / 咀嚼運動 |
研究概要 |
本研究の目的は、食感センサと咀嚼運動機構に食感知覚処理方法を組み合わせた食感計測システムの実現及び食感知覚の定量化である。ヒトは歯根と歯槽骨の間でクッションの役割を担う歯根膜という組織をもち、咀嚼時の歯根膜の伸縮を同膜内にある応答特性の異なる2種類の受容器によって検出し、最終的に脳内において食感として知覚する。 平成25年度に実施した研究では、この歯根膜の柔軟性と受容器の特性を備えた食感センサを提案した。手段として、研究代表者のシーズ技術である磁気式の変位・力センサの特性を応用し、ヒトの歯と受容特性を反映させた食感センサを新たに設計・製作した。 それと並行して、ヒトの咀嚼運動をモーションキャプチャシステムにより計測・解析し、運動軌道や速度を取得した。それにもとづき、咀嚼運動の再現の可能な咀嚼運動機構を設計した。平成25年度では、まず2自由度での運動が可能であり平成26年度に自由度を拡張できる構造をもつ咀嚼運動機構を製作し、運動軌道のレンジや速度の目標値が達成できたことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度の目標は、食感センサの設計および製作・評価と、咀嚼運動機構の設計および製作・評価を挙げた。 まず食感センサの設計において、ヒトの食感知覚の原理と特性を調査した。歯は表面からエナメル質、象牙質、歯髄からなる3層構造をもち、エナメル質と象牙質は剛体である。その歯の周囲にはセメント質、歯槽骨、歯根膜がある。このうち歯根膜は、歯と歯槽骨の間にある厚さ0.2~0.3mmほどの薄い膜で、歯と歯の周囲の骨を結びつけ、歯を支えるコラーゲン線維の堅固で弾力性に富む結合組織である。歯周靭帯とも呼ばれる。歯根膜は、歯根と歯槽骨をつなぎとめながらクッションのような働きをする他、感覚受容器としても働き、組織内に分布する豊富な知覚受容器によって、口腔内組織の働きを制御している。いわゆる食感はこの歯根膜内の受容器によって知覚されている。知覚受容器は大きく分けて2つの特性(速順応と遅順応)を示すものがあり、多様な食感を知覚するために歯根膜に生じた応力やその速度を検出していると考えられている。このことにもとづき、本研究では歯の変位の大きさと速度を別の素子で計測可能な食感センサを設計し製作した。基礎的な評価において、変位の最大誤差が0.18 mmでありレンジの10%に収まることを確認した。 さらに咀嚼運動機構の設計において、まずヒトの咀嚼軌道を計測した。被験者にチューイングガムを咀嚼させ、そのときの鼻先と顎先の3次元座標をモーションキャプチャシステムで取得し、咀嚼軌道のレンジと速度について計測した。その軌道のレンジと速度を実現できる運動機構を主にステッピングモータを用いた駆動機構で設計、製作した。ボールねじによるスライダ機構により0.1 mm以下の分解能で高精度に動作することを確認した。 以上の実施により、研究計画調書に挙げた平成25年度の目標値は100%達成した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究の実施によって、食感センサと咀嚼運動機構を設計、製作できた。平成26年度では、こららを組み合わせて食感評価システムを構成する。平成25年度に取得したヒトの咀嚼運動の軌道では、顎が上下する方向には約10 mmの変位があり、左右の方向には約6 mmの変位があった。顎の運動は周期的であるが、ガムを咀嚼した場合は大きな円形の軌道ではなく、細長い楕円軌道あるいは直線的な軌道であると捉えることができた。このような軌道を実現するための制御系の構築を実施する。また食感センサの高感度化を実現するための改良も行う。 それと並行して、食感センサから得られる歯に生じた変位とその速度の情報を入力とし、食感をクラスタリングする手法について検討、評価を実施する。研究計画調書で挙げた階層構造をもつ食感知覚モデルを検討し、入力層、中間層、出力層の3層構造の処理系に対して食感センサの磁気抵抗素子とインダクタの出力を入力として、最終的に具体的なモチモチやパリパリなどの食覚知覚を出力する。このうち、入力層は、計測目的に応じて処理に用いる入力の選択とローパスフィルタなどの単純なフィルタ処理を行う。すなわち、情報を選択し整える役割を担う。中間層は、入力層から受けた情報の特徴を定量化(例えば、既知の波形との類似度やインパルス状の急峻な変動の回数など)する。出力層は、定量化した特徴量に基づいてモチモチ感やパリパリ感があるなどの意味づけ行い、それを触覚知覚として出力する。特に中間層は市販の食感測定器と類似する処理方法になるが、食感センサとロードセルの違いによって生じる差から提案する食感計測システムの優位性を検証する。 以上の内容で今後の研究を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主にセンサの構造部材の材料や電子部品類などについて、物品費を削減したため次年度使用額が生じた。 平成25年度では咀嚼運動機構の自由度を予定よりも少ない数で製作している。ただし、平成26年度に追加をする予定であり、その追加に係る駆動機構や構造部材に使用する計画である。
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