研究課題/領域番号 |
25350102
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
森高 初恵 昭和女子大学, 生活機構研究科, 教授 (40220074)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 寒天ゾル / 嚥下特性 / テクスチャー / 官能評価 |
研究実績の概要 |
本年度は、寒天ゾル・ゲルを破砕したゾルを試料として、その物性と嚥下特性との関係について検討した。テクスチャー特性である硬さおよび付着性は、寒天濃度が増加すると、破砕前後の寒天ゾル・ゲル共に増加した。反対に、破砕前後の寒天ゾル・ゲルの凝集性は、寒天濃度が増加すると緩慢に減少した。官能評価項目の「口腔内での付着性」、「まとまりやすさ」、「嚥下時のまとまりやすさ」「嚥下時に舌が硬口蓋を押す力の強さ」、「総合的な嚥下力の大きさ」については、寒天濃度が増加すると有意に高いと評価された。「水と比較しての嚥下のしやすさ」は0.3%で一旦高く評価されたが、0.5%以上の寒天濃度では低く評価された。嚥下時の舌と硬口蓋の初期接触時間は、寒天濃度が同一の場合、チャンネル(以後、CHとする) 1で最も早く、CH3で最も遅かった。舌と硬口蓋の接触時間は、同一チャンネルにおいて寒天濃度の高いゾルで長く得られた。舌と硬口蓋接触時のピーク値および積分値は、どのチャンネルにおいても寒天濃度の高いゾルで大きく、総積分値は寒天濃度が高くなると増加した。破砕後寒天ゾル食塊の咽頭部における最大速度、最大速度平均および速度平均は、寒天濃度が高くなると遅くなった。グラフ面積も寒天濃度が増加すると遅くなったことから、寒天の濃度が高くなると、食塊の移動速度のばらつきが小さくなると考えられる。通過時間は、0%と比較して0.3%以上の寒天濃度の破砕後寒天ゾルで長くなった。以上の結果より、寒天濃度の低い破砕後寒天ゾルでは咽頭部における食塊の移動速度が速く、反対に寒天濃度の高い破砕後寒天ゾルでは大きな嚥下力が必要であったことから、嚥下機能の低下している者に対して総合的に適した物性を有するゾルは0.5%寒天破砕ゾルと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、平成26年度に実施予定であった寒天ゾル・ゲルを用いた嚥下機能低下者が安全に嚥下できる物性と嚥下特性との関係について検討した。被験者は20歳代女子学生とし、寒天濃度は0.1~0.9%として、寒天ゾル・ゲルを破砕した寒天ゾルをモデル試料とした。力学特性は昭和女子大学現有装置であるクリープメータを用いて、厚生労働省(現・消費者庁)が定めた嚥下困難者用食品許可基準の試験方法に従い、硬さ、凝集性、付着性などからモデル食品の力学特性について考察した。舌と硬口蓋の接触様相については、5個の感圧点を配列した極薄型シート状センサー(ニッタ社製)を用いて、舌と硬口蓋の定量的接触様相を座位にて計測した。測定は1試料につき1人10回ずつとし、得られたデータから初期接触時間、接触持続時間、ピーク値、積分値、総積分値などを求めた。これらの解析値から、破砕寒天ゾル食塊の嚥下時の舌と硬口蓋の接触様相について検討した。咽頭部における食塊の移動速度については、超音波画像診断装置を用いて咽頭部における食塊通過時の時間―速度スペクトルを計測し、咽頭部における食塊の最大移動速度、平均速度、通過時間、最大平均速度などを求め、破砕寒天ゾルの力学特性とこれらの移動特性との関係について検討した。官能評価について、ヒトが破砕寒天ゲルを摂食する際の口腔内感覚である「咀嚼の容易さ」、「まとまりやすさ」、「嚥下しやすさ」などについて、尺度法により評価し、検討した。 上述により得られたデータについて総合的に検討し、嚥下過程において安全に嚥下できる食品の力学特性について究明した。その結果、0.5%破砕寒天ゲルが軽度の嚥下機能低下者にとって飲み込みやすい物性を有することが考えられた。しかし、平成27年度当初計画した目標に対してはやや遅れていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は平成25年度より実施してきた研究の最終年度となる。そこで、本研究期間において、これまで積み重ねてきた研究結果を整理し、検討が不足している点については実験を追加して総合的に検討する予定である。これらの検討結果を踏まえ、咀嚼・嚥下過程での破砕寒天ゾルの食塊の挙動と食品の物性について体系的に究明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務大学の図書館長として就任し、図書館の改装を行うこととなったために、課題研究を実施するための十分な時間を確保できなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
研究期間を1年延長して研究を行い、本研究課題の目的を達成することとなっており、実験に関する消耗品費、成果発表に関する旅費や参加費および論文掲載料などとして使用する計画である。
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