本研究は、「おいしい」食感の感性表現を客観的な機器による食品構造の破壊過程から食品属性に翻訳するシステムの開発を目的とした。咀嚼による食品の破壊過程で「かたさ・粗滑等」の変化が知覚され、それらを認知して食感のおいしさが表現される。本研究では、硬・柔のレベルではないおいしい食感の感性表現を、知覚に対応した食品属性の変化に翻訳することを目指した。 澱粉ゲルを用いて「もちもち」食感表現を構造と物性に翻訳するシステムを検討した。「もちもち」食感を切歯・臼歯の咀嚼モデルによる力学特性と構造状態から具体的に明らかにした。噛み始めは応力が小さい(やわらかい)が、噛みしめたときは応力が大きい(噛み応えがある)、咀嚼2回目以降もその応力が持続(噛み応えが持続)、さらに咀嚼中に少し付着性がある(少し歯にくっ付く)ことにより、人間は「もちもち」食感を認知していることが明らかとなった。この「もちもち」食感にタピオカ澱粉の伸展性が寄与することを明らかにした。うどんの「つるつる」食感表現には表面のやわらかさの寄与が大きく、表面の摩擦力の寄与は小さいことを明らかにした。パスタを用いて、一噛み目の「モッチリと/プリッと」食感表現を構造と物性に翻訳するシステムを検討した。これら食感は第1咀嚼をモデルにした力学特性とそれらの構造状態の解析結果から具体的に明らかにした。また、プリンを用いて「とろーり」食感表現を構造と物性に翻訳するシステムを検討した。舌と口蓋での破壊をモデルとした物性測定と構造観察の結果から、破断点を生じず、未変形とほとんど同じ構造を示すことを明らかにした。 以上の様に、咀嚼中の口腔内の使用部位(歯/舌)と時間経過について(イ)咀嚼知覚の意識化(官能評価)。咀嚼破壊の過程を機器による破壊で(ロ)単純モデル化。おいしい食感を力学特性と構造状態から(ハ)見える化するシステムを確立することが出来た。
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