マツタケの香りは収穫後,保存することにより減少・消失する.その原因は,収穫後の香気成分の揮発と生合成酵素の活性の低下に伴う香気成分合成量の減少と考えられている.マツタケの香りを特徴づけているのは,主に桂皮酸メチルであることが分かっているが,マツタケの香りの減少・消失に桂皮酸メチルがどこまで寄与しているのかは明らかにされていない. 平成27年度において,保存によるマツタケの香りの減少・消失と桂皮酸メチル生合成のメカニズムを解明するため,マツタケ子実体(長野産)を4℃で保存(0,3,6日間)した後,傘,ひだ,柄の各部位における桂皮酸メチル生合成酵素フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の活性と桂皮酸メチル量の関係を調べた.PAL活性と桂皮酸メチル量は,保存による顕著な影響は見られなかった.しかし,桂皮酸メチルと同時に測定できるマツタケのもう一つの主な香気成分1-オクテン-3-オール量は,全ての部位において,保存により減少した.これより,保存によるマツタケの香りの減少・消失には,桂皮酸メチルより1-オクテン-3-オールの方が大きく関与していると考えられた. TmPAL1とTmPAL2のcDNAより大腸菌発現系を用いて活性を有する組換えPALタンパク質を産出した.TmPAL1においては,精製の条件を検討中であり,TmPAL2においては,精製が成功している. 桂皮酸メチルの材料であるフェニルアラニンを添加した培地で培養したマツタケ菌糸体における,TmPAL1とTmPAL2の発現を調べた.その結果,TmPAL1に変化が見られなかったのに対して,TmPAL2の発現量は増加した.これまでの子実体と菌糸体におけるPAL遺伝子の発現解析の結果より,TmPAL2が主に桂皮酸メチルの生合成に関与していると考えられた.
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