研究課題/領域番号 |
25350120
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
玖村 朗人 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00241365)
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研究分担者 |
石塚 敏 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00271627)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 紅麹菌 / シトリニン / 機能性代謝産物 / HMG-CoA |
研究概要 |
紅麹菌は動脈硬化のリスク低減を目的とした機能性食品素材の開発に有効な二次代謝産物を産生する食用微生物である。しかし一方で肝腎障害に関わるシトリニンを同時に産生する場合があり、食品素材への紅麹菌の応用に際しては適切な菌株選択と厳密な培養制御が必要である。そこで申請者は広汎な条件設定にも対応可能な上に調製が容易で、得られる培養産物をready to eatで利用可能な固体培養基剤を用いて菌株や培養条件を精査し、得られる紅麹菌培養物を実験動物に給餌して機能性を評価する研究プログラムを立案した。 当年度の主目的は優良な紅麹菌株のスクリーニングと培養条件の検討である。従来紅麹菌の培養に用いられてきた米やイモのような植物性の基質はデンプンが主成分であるのに対し、本研究で用いる培地のそれは熱変性したホエータンパク質であるため、従来と組成の点で大きく異なることになる。そこで紅麹菌が本培地中へシトリニンを分泌した場合を想定し、それを定量するために、熱変性ホエータンパク質に直接既知量のシトリニンを加え、溶液の種類や処理条件を変えながら、最適な抽出条件の検討を行った。次にM. purpureus、M. ruber、M. pilosusの3菌種を当該固形培地上で培養し、培養物から抽出した代謝産物をHPLCまたは質量分析に供した。これによりシトリニンのみならずロバスタチン、アンカフラビン、モナスシン等の機能性成分の有無と共に定量を試みた。さらに抽出物のヒドロキシメチル-グルタリル コエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素阻害活性を測定し、生物活性の点からも抽出物の評価を行った。 その結果、別項に記載した点に関する改善の余地を残しつつも、シトリニン非産生かつHMG-CoA阻害活性を有する代謝産物が得られる条件としてM. ruberを25℃ pH 4.0~4.5で培養した場合が挙げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)熱変性ホエータンパク質固形培地で培養した紅麹菌からシトリニンを抽出する際に、現時点では酢酸エチルおよび75%エタノールを使用することが最適であると判断されるが、更なる検討の余地を多分に残している。熱変性ホエータンパク質に直接既知量のシトリニンを加え、溶液の種類や処理条件を変えながら、最適な抽出条件の検討を行ったものの、回収率が実験を行う度に大きく異なり一定しなかった。これは実験全般の熟練度は勿論、HPLCで定量する際に認められる前後ピークとの分離性にも原因がある。また市販のシトリニンは光による分解を受け易く、HPLCを用いて標準曲線を作成する上で、遮光や試薬の鮮度もまた重要な因子であることが確認された。食品への応用を行うためには安全性の確保は必須であり、当該培養条件下で得られる培養産物からのシトリニンの抽出性・定量性に関しては今後も改良を加えて行く必要があるだろう。 2)使用した紅麹菌は3菌種であるが、各菌種1株しか試行しておらず、培養条件の検討としては培養開始時のpHのみに留まっている。菌株数を増やす、培養温度や培養日数を変える、認可された食品添加物の中でシトリニンや機能性二次代謝産物の産生に好ましい影響を与えることが期待される素材についても試行する等、供試菌・培養条件に関しても検討すべき点が多く残されている。
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今後の研究の推進方策 |
1)シトリニンの抽出性・定量性に関しては、光の透過性が低い器具の使用やHPLCにおけるカラム、分離条件の再検討が必要となろう。 2)機能性代謝産物であるロバスタチン、アンカフラビン、モナスシンの中で純品が市販されているのはロバスタチンのみである。ロバスタチンはHMG-CoA阻害活性に関与する無色の代謝産物で、HPLCを用いた定量は比較的安定した結果が得られるため、これを用いてシトリニンの場合と同様に培養物からの抽出性を検討することが可能である。一方、アンカフラビンとモナスシンに関しては市販品がない、あるいは極めて高価であるために定量用の純粋標品を自家調製することを試みた。しかし、シトリニンと同様、淡黄色を呈するこれらの物質はシリカカラムでの精製を経る度に光による分解が促進されるためか、充分量を回収するには至らなかった。これらの機能性代謝産物はHMG-CoA阻害活性への貢献はロバスタチンよりも低いと考えられているために、本研究においては質量分析法を用いた定性的な評価に止めることとした。 3)紅麹菌の培養に際しては上記のように供試菌株数を増やし、培養温度や培養日数、培地への添加素材の検討等、さらに詳細な検討を加えたい。 4)以上の経緯より当初予定していた高脂肪・高ショ糖食飼育ラットを用いた脂質代謝実験は本年度後半からの実施になるものと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
紅麹菌由来のマイコトキシンであるシトリニンの抽出及び定量条件の検討に多大な時間を費やし、初年度に計画した研究項目の進展が遅れたため、次の段階で必要となる試薬や器具の購入が停滞したことがこの理由である。 シトリニンの抽出性・定量性を向上させるために、光の透過性が低い器具やHPLCカラムの購入が必要であり、さらにHMG-CoA阻害活性評価を行う際の市販キット、供試菌株の追加さらには実験動物の購入等の出費を予定している。
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