魚の主要抗原は水溶性の分子量約12kDのパルブアルブミンと考えられている。このタンパク質は熱に対する安定性が非常に高いため加熱調理後にも抗原性が保たれているため、アレルゲンとなりやすいとされている。もう一つの特徴として、各魚種間のパルブアルブミンはお互いに交差抗原性を示すことが挙げられる。このことは臨床現場では、一つの魚に対するアレルギーが存在し、その魚に対する特異的IgE抗体が陽性であると、他の魚に対する特異的IgE抗体も陽性になることが多いという現象をもたらしている。そのため、抗原特異的IgE抗体検査結果のみをもとに食事指導を行うと、すべての魚の摂取を避けることになりかねず、ビタミンD欠乏症をおこす可能性がでてくる。 一方、自験例では、多種の魚に対する特異的IgE抗体陽性の魚アレルギー児に対して、一定の方法により、魚を摂取させていくと、すべての魚アレルギーに対する耐性が獲得されていった。 本年度はその食事指導の方法の妥当性の根拠を、生魚、焼き魚、干物にした魚、発酵させた魚についてパルブアルブミンとコラーゲンの抗原性の観点から検討した。 その結果、今回の検討による新しい知見としてはパルブアルブミンも加熱することにより、低アレルゲン化することを示すことができた。干物にした魚や麹により発酵させた上で加熱した魚は、さらに低アレルゲン化することが確認された。この事実は臨床現場において得られる現象と一致していた。 一方、コラーゲンは加熱による抗原性の低下がパルブアルブミンよりも顕著であったが、生魚と干物、麹処理をした魚との間で加熱による差は明確ではなかった。
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