幼児は種々の食物を、離乳食やその後の幼児食として与えられ、その食経験を通じて食物の属性としての味、香り、テクスチャーなどを記憶して成長していく。幼児期の食経験は成長後の食嗜好の形成に重要であるとされるが、それを証明する科学的な研究は乏しい。本研究は、離乳直後のラットを対象とし、食物の感覚情報(主として味覚と嗅覚であり総称してフレーバーという)と摂取に伴う快感・不快感との連合学習が可能か否か、可能なら成長後もその学習結果を記憶しているのかどうか等を明らかにすることを目的とする。
離乳直後(3週齢)のWistar系雄性ラットを用い、フレーバー嗜好学習のパラダイムを実施した。すなわち、ラットは快感を呈する味と連合された香りを好み、不快感と連合した香りを嫌うという本能行動を利用し、水(無味)と連合した香り(グレープまたはチェリー)、各種うま味物質と連合した香り(チェリーまたはグレープ)をそれぞれ3日間経験させ、その直後にいずれの香りを嗜好するようになるかを調べた。幼弱ラットはMSG(グルタミン酸ナトリウム)とIMP(イノシン酸ナトリウム)の混合溶液と連合した香りを嗜好し、成長後もその嗜好性は保たれたが、MSG単独、IMP単独溶液と連合した場合は嗜好学習を獲得しなかった。成長後のラットでは単独溶液で嗜好学習が獲得し、しかもその要因は味覚というよりは内臓の刺激によると報告されていることから、幼弱ラットの消化管はうま味刺激に十分反応しないものと思われる。MSGとIMPの混合は相乗効果を引き起こすことが知られているが、内臓では相乗効果が発揮されないことが示されていることから、幼弱ラットは相乗的に強まったうま味の味覚効果に強い快感を覚え、そのためフレーバー嗜好学習を獲得したものと考えられる。離乳期の幼児にはうま味の相乗効果を利用して、おいしい味付けの食事を与えることが大切であることが示された。
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