研究課題/領域番号 |
25350187
|
研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
新田 英雄 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (50198529)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | アクティブラーニング / ピア・インストラクション / 物理教育 / 授業の定量的評価 / 授業の定量的分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,学生間,学生と教師,学生と現象(実験)といった,学習者相互作用を重視したインタラクティブな物理授業(アクティブラーニング型の物理授業)を,実践を通じて開発すると同時に,その効果を科学的に分析・評価し教材開発・授業改善につなげていく方法を研究開発することにある。平成26年度は,平成25年度の研究経過を受けて,主に次の(1)~(3)に取り組んだ。 (1)平成25年度に引き続き,大学におけるピア・インストラクション(PI)型物理基礎講義(「物理学概論」)においてPIの効果と学習内容との関連等を定量的に分析した。また,昨年度の高校物理における実践研究で生徒から教師へのフィードバック機能の有効性が示された「振り返り」(メタ認知)活動を,e-learningシステム(WebClass)からの入力で取り入れることを試みた。その結果,特にPIの設問に関してのメタ認知活動が促進されることが示唆された。また,「振り返り」活動における学生の疑問に授業で回答する等,相互作用型の授業構成と改善にも活用できることがわかった。 (2)平成25年度の研究で,規格化ゲイン・PI効率ともに男女差の大きい問題があることが明らかになった。また,それが高校物理学習以前に生じていることが示唆された。そこで,FCIを小学校・中学校で実施し,男女差がどの学習段階で生じているのかを調査した。その結果,小学校6年生で6.9%,中学校3年(力学分野未習段階)で8.5%,男子が女子を有意に上回っていることがわかった。 (3)学習指導の形をとりながら学習者の物理思考過程をthink aloud方式で記録したプロトコルを詳細に分析した。その結果,初学者はテストの正答率から想像されるよりもかなり低い水準の物理概念理解に留まっていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PI型授業を中心に授業の定量的分析をさらに進めた。また,MazurのオリジナルなPI型授業を超えるためのさらなる改善策として,e-learningによる学生のメタ認知活動を取り入れた。その結果,メタ認知活動が授業へのフィードバック効果を引き起こし,相互作用を強めることがわかった。これらは昨年度の授業実践を定量的に分析しそれを授業改善に活用するというループが巧く機能していることを示唆する。 また,授業の定量化とそれに基づく授業分析方法の論文が昨年度の日本科学教育学会論文賞を獲得したことから,本研究の成果がすでに高い評価を受けていると結論付けられる。 さらに,FCIを小中学校で実施し,有意な男女差が物理未習段階の小学校6年で既に生じていることを見出した。これは本研究の定量的分析が今まで気づかれなかった問題点を明らかにできることを示唆するものであり,予想以上の成果が得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25,26年度の研究で,PI型授業の定量化とフィードバックループ開発の基礎的な研究結果が示された。本年度は引き続き上記のPI型授業の定量化とフィードバックループの研究を行う。また,PI型授業と他のアクティブラーニング法との組み合わせとして,PI設問の回答理由の記述を求めたり,特に図式化を求めたりする言語活動を取り入れる実践研究を行う。 さらに,CLASS(Colorado Learning Attitude about Science Survey)を用いたattitude調査を実施し,物理学習に対する学習者の姿勢を定量化することに取り組む。これは,学習指導要領にも記されている「科学的なものの見かた・考えかた」を養う授業が実施できているか否かに対する定量的な調査法の開発につながる非常に重要な取り組みと考えられる。 一方,物理学習者の感じる困難を分析するために,FCIの設問ごとの詳細な定量的な比較分析を引き続き行う。それと同時に,think aloud方式による物理学習者の詳細な思考過程分析を行うことにより,定量的データの背景にある微細構造を考究する。 以上の研究をまとめ,本研究課題の総括を行うとともに,国内会議,国際会議で包括的な研究発表を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究補助等に要すると考えられた人件費が想定より抑えられたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究の総括に必要な資料整理等の研究補助に充当するとともに,物価上昇の影響を受けている物品費の補填に充てる。
|