研究課題/領域番号 |
25350198
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
梶原 裕二 京都教育大学, 教育学部, 教授 (10281114)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高等学校生物 / 実習 / 組織構造 / 動物系統 / 進化 / 簡易凍結徒手切片法 / ヒドラ / カイメン |
研究実績の概要 |
高等学校生物で、動物組織の観察を伴う新規の実習を開発し、新課程の生物が知識に偏ることなく、「動物・生命そのものに立脚し、生徒の実感を伴う学習」となるようにする。新たに開発した「簡易凍結徒手切片法」は、従来、専用機器、高度な技術、煩雑な操作と時間を必要とした動物の組織実習を、極めて短時間に簡便に標本を作成できるようにした。この簡便さにより、どの学校でも普通に動物組織を観察できるようになり、生徒の実習課題や内容を大幅に広げた。特に、その煩雑さから対象がマウス等の実験動物に偏っていたが、様々な動物門に属する生物の組織を見る機会が得られた。 多様な動物門の動物を実際に観察する長所を活かし、これまでにない動物の系統、進化、体の複雑化を実感する授業案を作成した。具体的には、カイメン、ヒドラ、プラナリア、ミミズ、イモリ幼生、ニワトリ胚の組織を観察し、各々、乱雑な細胞群、胚葉の出現と腸/体外消化、間充識組織の発達、真体腔と腸/血管の発達・体液と筋肉2層による運動、神経管/脊索の発達・腹腔/胸腔と内臓器官の発達を実際に確認できる教材が開発できた。動物の系統や進化の単元で、具体的な動物や実際の観察を伴う実習はほとんどなかったので意義は大きい。生物の学習の終わりに動物分類・系統の単元において、後生動物を俯瞰する内容とすると効果的であろう。 H26年度の進捗について、第一は、脊椎動物の特徴を理解する動物として、脊索動物のナメクジウオの体と組織を観察し、イモリ幼生と比較し、脊索と神経等で脊索動物を実感を通して理解、腹腔の発達で内臓器官の充実が理解できるようにした。先の動物群にナメクジウオを加え、京都府立高校で実践した。第二は視覚器に注目し、昆虫の複眼を見るとともに、脊椎動物では、視細胞と色素細胞の機能を本質的に理解するためには、従来の哺乳類より、フナや両生類が適している結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高等学校生物では、動物界の特徴を総合的に理解する実習はほとんどないが、簡易凍結徒手切片法を用いることで、各動物門の動物の存在、各動物門の動物の特徴、系統と進化を理解する実習が新たに考案できた。 H25-H26年度の研究結果から、以下の内容を理解する実習を考案、実践した。カイメンの観察から、骨片や乱雑に散在する細胞、襟細胞、扁平細胞、アメーバ細胞、卵細胞といった細胞分化が理解できる。ヒドラの観察から、内胚葉や外胚葉といった胚葉の出現、腸の形成と体外消化、刺細胞や消化細胞など多様な細胞分化が理解できる。プラナリアの観察から、間充識組織の発達、間充識空間の出現と腸の発達が理解できる。ミミズの観察から、縦走、輪走の2層の筋肉層、中胚葉に覆われた真体腔の存在、腸管の発達、血管の存在、体液・体節構造と筋層による運動などが理解できる。ヌマエビの観察から、背側の腸管と腹側の神経管の配置、発達した筋肉層などが理解できる。ナメクジウオの観察から、脊索動物門の理解、脊索による体の支持、神経管/脊索/腸の配置が理解できる。イモリ幼生の観察から、頭部の中枢神経の発達、顎の出現、脊索による体の支持、体側中胚葉や臟側中胚葉に覆われた腸管と広大な腹腔/胸腔の存在が理解できる。 これらの観察内容は、細胞分化、細胞接着、細胞層、細胞外基質、腸の分化、真体腔の発達、腹腔/胸腔と内臓器官の発達など、後生動物の体の基本的なつくりを理解できるものであり、私たちヒトの体の構造や成り立ち、機能を基本的に理解することへと繋がるものである。 京都府立高校での実践により、サーキット形式による具体的な実習指導案を考案した。アンケート結果から、カイメン、ヒドラといった動物を見たり、学んだ経験がないことがわかり、これらの動物を実際に見る、理解する機会を提供する必要性がわかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、動物分類・系統と進化の単元で、新たに、多様な動物門に属する動物の体の組織構造を学ぶ実習案を立案することができた。 今年度は、他の視点として、細胞の機能に関する実習案を立案する。具体的には、細胞の重要な働きとして、細胞増殖がある。従来、ブロモデオキシウリジン(BrdU)で分裂細胞を標識し、検出する実験手順がある。申請者が開発した「簡易凍結徒手切片法」によっても、予備実験ではあるが、小腸や精巣の分裂細胞を検出することができ、少人数の高大連携授業で実践している。この実習では、S期にチミジンの代わりにBrdUがDNA複製に取り込まれるため、生物基礎や生物のDNAの機能を学ぶ単元で、重要で効果的な実習となる要素がある。予備実験を含め、これまでマウスを用いることが一般的であったが、マウスは通常の高等学校で取り扱いが難しく、適した動物材料とは言えない。また、実験動物の飼養保管等基準の改正もあり、実験動物に含まれる哺乳類、爬虫類、鳥類について、3Rの観点から、他の動物種へ置き換えることも重要であろう。そこで、一般的な実験動物として、両生類のアフリカツメガエルを用い、具体的な手順を考案する。 まず、アフリカツメガエルの産卵と子カエルの育成を行う。アフリカツメカエルは飼育も簡単で、産卵数が多く、多くの子カエルを準備することができるため、学校の実験材料として適している。次に、解剖実習の手順と指導案の作成する。①紙によるドライカエルの模擬解剖の手順や解剖への心理的負担の軽減、②教材として貴重な生命をより深く多段階で学ぶという観点から、解剖実習を元に組織実習の材料として再利用する。カエルの組織実習は哺乳類に劣らず効果的であることがわかっている。③予備実験では、腸上皮細胞はマウスでは標識、検出できるが、カエルでは未だ分裂組織像は得られていない。カエルを用いて標識、検出手順を考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用した実験動物の種類や頭数を当初予定より低くできたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度がまとめの年度にあたるため、次年度分と合わせて使用、充実したい。
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