研究課題
基盤研究(C)
「化学反応と熱・光」など「化学基礎・化学」新教科書に登場した新しい事項や発展的内容について、科学的探究力と思考力の育成を意図した化学実験教材を開発することを研究の目的とし、網本が[A]光化学・有機化学、古賀が[B]熱化学・無機化学を主に担当しながら、具体的な教材開発を進めた。[A]光化学・有機化学 (1)固体状態で光変色や発光を示す有機色素を探索し、その構造と物性の相関を明らかにした。また、3-ヒドロキシフラボン類に種々の置換基を導入することで、青色から黄・緑・橙色までの発光の多色性が実現できた。(2)色材として利用される銅フタロシアニンの分析および合成に関する教材実験と学習プログラムを開発し、化学と教育誌に論文掲載した。(3)定性および定量実験を踏まえたヒドロキシ酸の識別実験を開発し、高等学校での授業実践を踏まえて実験教材の有用性を議論した。また、リンゴ酸の脱水によるフマル酸の生成とマレイン酸の水和によるリンゴ酸の生成を生徒実験として行う方法を確立した。(4)その他、グルコースメーターの教材利用やビウレット反応を銅の定量に展開した教材実験について、学会発表を行った。[B]熱化学・無機化学 (1)炭酸カルシウム関連化合物の結晶生長と相転移に関する基礎研究を展開した。(2)弱酸の中和熱や過酸化水素の分解反応、固体反応に関する熱化学実験教材、過炭酸ナトリウムの組成を多角的視点から生徒自らが決定できる探究的実験教材、空気亜鉛電池を簡易な酸素検出器として用いる教具を開発し、J. Chem. Educ.に論文を多数公表した。(3)その他、二酸化炭素吸蔵系、フェントン反応、熱暴走反応等に関する教材実験について、学会発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
申請時の計画通り、[A]光化学・有機化学と[B]熱化学・無機化学の各領域において、バランスよくかつ多岐にわたる教材開発を進めることができている。その成果は国内外の学会(日本化学会第94春季年会・2013年日本化学会中国四国支部大会の理科・化学教育セッション、日本理科教育学会第63回全国大会など)で15件発表され、J. Chem. Educ.や化学と教育誌など理科・化学教育に関する論文誌に6件公表された。投稿中論文・執筆準備中の内容が蓄積されてきており、今後の成果公表を楽しみにしている。教材化に向けた化学素材に対する探査の過程で新奇かつ興味深い現象が見いだされ、その現象解明に向けた理学的研究も同時に進められている。その成果は国内外の学会で19件発表(1件の基調講演・2件の招待講演を含む)、J. Therm. Anal. Calorim.やJ. Phys. Chem.など国際論文誌に6件公表され、熱化学・結晶固体化学・光化学に関する専門研究においても注目されている。古賀は熱分析的手法を用いた固相反応動力学の解析方法論とその応用に関する基礎的研究を通じた固体化学の発展への貢献が評価され、本年度チェコ共和国科学アカデミーから“The Jaroslav Heyrovsky Honorary Medal for Merit in Chemical Sciences”を授与された。これらの意味で、本研究課題はかなり順調に進行できていると評価している。
平成26年度も[A]光化学・有機化学と[B]熱化学・無機化学の2領域を中心に、生体関連化学や速度論・平衡論など関連分野を包括した教材開発研究を継続的に進める。まずは平成25年度に学会発表された研究成果を論文として公表できるよう努めるとともに、「化学反応と熱・光」にとらわれず「化学基礎・化学」新教科書における発展的内容の学習を支援する教材開発を積極的に推進する。具体的には以下の(1)-(3)の事項について、研究を推進する。(1)光・熱とエネルギー変換に関する教材化に向け、有機色素や無機材料のさらなる素材探査を進める。(2)光や熱に関連する化学現象や生体関連物質の挙動を捉えるツールとしての化学センサを有効活用する学習プログラムの開発を進める。(3)GSC(グリーンサステイナブルケミストリー)とESD(社会の持続的発展のための教育)を架橋した化学学習プログラムを開発する。
当初予定していた人件費・謝金を支出せずに済んだことと、学会参加登録費として計上していたその他経費が節減できたことが奏功し、1万円程度の余剰を生じた。次年度交付分と合わせ、物品費および旅費の一部として使用する予定である。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 14件) 学会発表 (34件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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