「化学基礎・化学」の学習内容に基づいて科学的探究力と思考力を育成する化学実験教材を開発することが本研究課題の目的である。最終年度となる平成27年度の主要な研究成果について、研究代表者(網本)の実績を(1)-(4)に、研究分担者(古賀)の実績を(5)に、それぞれ記す。 (1)アルコールの脱離反応で生じるアルケンを付加反応の素材として用いることで、脱離反応と付加反応を一連の実験活動の中で取り扱うとともに、付加生成物の位置選択性を探究させる実験教材を開発した。 (2)平成26年度までに開発した「ヒドロキシ酸の識別に関する実験教材」を探究活動に取り入れ、化学実験中でメタ認知を活性化させる実践的研究を共同研究者の木下らと実施した。 (3)天然高分子であるセルロースは硫酸やセルラーゼによって加水分解されるが、信頼性ある教材実験は確立されていなかった。複数のセルラーゼを用いる酵素加水分解によってセルロースがグルコースまで高効率に分解できる手法を見いだし、その実験教材としての方法を確立させた。 (4)現行教科書で新しく記載された「光化学・発光」に関する実験教材が求められている現状を踏まえ、その開発のための素材を継続的に探査している。その過程で、ニンヒドリン類縁化合物であるイサチンから誘導される有機色素が結晶状態で異なる色調や発光現象を示すこと、特定の陰イオンをセンシングできることを新たに発見した。また、高等学校化学「有機化学」で学習するケト-エノール互変異性が結晶中に固定されているビスジメドン結晶を見いだし、その構造を明らかにした。 (5)高等学校化学「化学反応と熱」・「無機化学」に関する教材開発・素材研究・学習プログラム開発 無機物質・熱化学を素材とする化学実験教材の開発を研究分担者(古賀)が精力的に推進し、その成果をJ. Chem. Educ.ならびに国際学会で数多く発信した。
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