本年度も、理科学習場面において子どもが表出させた比喩的表現を通して、子どもの科学的な思考の様態と科学概念形成過程における比喩的表現の役割について精査した。本年度の研究からは、以下の知見が得られた。 小学校第3学年理科の「ものと重さ」の学習では、物質による重さの違いを説明するための根拠として、物質の材質の違いに言及するだけでなく、「物質にある重さの粒の存在とその数の違い」や「物質内の軽重のある領域の存在とその割合の違い」等の考えについてモデル(イメージ図)を用いて表現できることと、物質の内部を格子型に分けて、その中に自分の考えを表す粒を取り入れる等の後に学習する密度概念の萌芽ともいうべき考えをもつことが明らかとなった。しかし、モデル構築を容易にしていくためにも、教師が提示する物質の具体的な数量(数値)にも気を配ることが肝要であることが示された。 また,研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、以下の通りである。 1.小学校段階の子どもにおいても、メタファー・アナロジー等の比喩的表現とその類似性を検討し、モデルを構築することは可能である。そして、子どものモデル構築における根拠の提示についても、子どもが意図を理解して行うことがある程度は可能である。 2.子どもが電気回路中に表現することの多い「電気の粒」や物質のもとになる「粒」について、小学生は、電流や重さの大小関係を表現する手段として便宜的に「粒」を用いている。また、学習対象である事象そのものは理解できても、その解釈に必要な情報の不足により概念的に理解することが困難な現象については、比喩的表現を用いたとしても、考えの表現に限界が生じてしまう。 3.高校生や大学生でも、自らが構築したモデルと他者のモデルを比較し評価(理解)したり、モデルの設定に関する条件を考えたりすることで、自らの科学概念を更新する必要性に気づくことが改めて示された。
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