本研究の目的は、科学的プロセスの中で一定の役割を果たすと考えられる価値判断について、その具体的な中身や、他の科学的判断との関係を科学哲学的観点で明らかにし、こうした判断について理系の学生が学ぶことのできる学習プログラムを構築することにある。研究実施計画に基づき、本研究では次のような成果を上げた。 2013年度は、まず気候科学を例として科学者の判断に価値判断がいかにして含まれるかを追究し、連携研究者の気候学者とともに公開討論を実施した(同年12月に関連の論文を公開)。また、震災後の地震学会の動向を調査しつつ、これをR. Rudner以来の科学哲学の議論に照らして、科学者の価値判断にどの程度規範性が含まれるかを明らかにした(特に、予防原則が科学者の規範的価値判断に条件付で含まれることを明らかにした)。 2014年度には、前年と異なる気候学者らとワークショップを開催し、再び気候科学を例に、より認識論的な観点で科学的判断における価値判断の役割について検討した。また価値判断の問題に深く関わり、価値判断に関する教育上有益な研究倫理(研究不正)についても検討を行い、複数の講演を行った。加えて、個別諸科学における「因果的判断」について哲学的視点で分析し、価値判断を含めた判断の成り立ちをテーマとするワークショップを北大科学基礎論研究室のメンバーとともに行った。加えて、北海道大学理学院の授業「科学技術基礎論」において、価値判断について学ぶ授業(全15回)を試行的に行い、授業が学生の自覚形成に有効であることを確認した。 2015年度(最終年度)は、これまでの研究成果のうち、特に重要な科学者の規範的価値判断の根拠について、科学哲学世界大会(ヘルシンキ)で発表し、各国の参加者と活発な議論を行った。この国際会議での発表を含めた本研究全体の成果として、科学における価値判断に関する教科書を執筆中である。
|