研究課題/領域番号 |
25350233
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
人見 久城 宇都宮大学, 教育学部, 教授 (10218729)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 科学教育 / 高等学校 / 理科 |
研究実績の概要 |
第一に,国内の高等学校で実践されている「理科課題研究」について,文献検索や高校のホームページ等を利用して,事例を収集した。その結果,「理科課題研究」の開設率は非常に低いことがわかった。開設率が低い理由のひとつは,指導の困難さにあると考えられた。一般的な指導方法は,自然科学における研究の過程を具体的な場面として展開することであるが,その過程を生徒が主体的に進めていくことに困難が伴うのであると考えられる。生徒が課題研究を継続して行いたいと思えるような指導モデルの提案が必要であると結論できる。 第二に,アメリカの科学教育における事例について文献分析を実施し,課題研究の特質を明らかにした。また,課題研究の遂行を評価するための枠組みについて分析を進めた。フェイら(2008)による「探究学習のレベル」に対する適合度の評価をもとに,評価方法について,学習指導との関係を分析した。 第三に,科学的素養獲得をねらいとした高校理科課題研究の内容と指導方法について検討した。課題研究はまさに科学的探究であるため,その評価が難しいという声が教員間で根強い。そこで,生徒の状況を把握し,適切な指導を行う上で,指標を検討した。それは次の3つである。(1)教師の支援なしに,1つの点から他の状況へ研究や探究を進めていくことができない。計画全体を把握することができない。(2)探究のいろいろな過程をていねいに説明してもらわないと,実験や研究を実際に順序立てて実施することはできない。(3)探究の各課題について,なぜそうするか,はっきりとした理由がある。簡単な説明を受けただけで,それらを順序立ててとりおこない,正しい推論に基づいた決定ができる。これらの指標や教員からの評価を総合すると,教師自身が科学的探究を体験していなければ,生徒に科学的探究を指導することはできないということが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科学的素養習得をねらいとした高校理科の課題研究の実践事例とそれを支援する指導方法をまとめ,それらを具体的に提案することを目標とした。教材開発の一部と評価が遅延しているため,研究期間を1年間(平成28年度)延長したが,その他はおおむね順調に達成したと考えている。具体的には,次のような成果を得た。 現行の高校理科の教育課程において課題研究等の実施状況について分析し,その知見をまとめた(人見久城:高等学校学習指導要領実施上の課題とその改善(理科),2015)。 科学的素養の習得において,コンピテンスを基盤とする授業のあり方の検討も重要であることから,それについての分析を学会発表した(人見:コンピテンス基盤型の理科授業を考える,2015,および,大貫,鈴木,人見:企業において求められるコンピテンシーとは(2),2015)。 課題研究遂行のための教材として,科学の応用面に焦点をあてた事例が考えられる。その教材開発のために,アメリカの事例の特徴を分析した(人見:アメリカの科学教育におけるエンジニアリング・デザインの特徴,2015)。技術とエンジニアリングに関する学習の評価方法について分析した(人見:全米学力調査における「技術とエンジニアリング」の評価の枠組み,2015)。 とらえにくい自然の事象を理解するための方略として,ロールプレイの導入とその効果が検討された(鈴木,人見:理科教育におけるロールプレイの導入とその教育的効果,2015,および,鈴木,人見:理科教育におけるロールプレイの導入とその教育的効果(2),2015)。
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今後の研究の推進方策 |
高校理科課題研究の内容事例と指導法を検討してきた。内容として,理科の各領域における教材開発とその試行や,探究学習のモデルに対する適合度に関する評価を予定した。しかし,教材開発の一部と評価が遅延し,平成27年度内に完了する見込みが立ちにくい。そこで,平成28年度に,教材開発とそれに対する評価を行い,研究を完了させたいと考えている。 一方,本研究を進めるなかで,日本の理科教育において「ものづくり」の指導方略があまり充実させていないことに気付くようになった。アメリカの科学教育に目を転じると,日本の理科の「ものづくり」と類似する学習活動(過程)として,エンジニアリング・デザイン(Engineering Design)を挙げることができる。これは,a)解決すべき問題を特定しb)可能な解決策を提案し,c)デザインを最適化する,という流れの学習活動である(Moore et al., 2015)。近年のSTEM教育の広がりにより,このエンジニアリング・デザインという学習活動は,技術教育(Engineering Education)から理科教育(Science Education)へ導入が試みられつつある。日本の理科の「ものづくり」の指導方略を検討する上で,エンジニアリング・デザインの特徴の分析は,有意義な知見を提供すると考えられる。以上のような問題意識をさらに掘り下げて,本研究の完了後は,理科におけるものづくりに注目し,指導方法の具体化,生徒の理解を評価する視点などの検討をおこない,理科学習としての「ものづくり」について適切な指導方略を提案することを,次の研究目標にしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
高校理科課題研究における教材開発の一部と評価が遅延した。そこで,平成28年度に教材開発とそれに対する評価を行い,研究を完了させたいと考えている。 研究計画は次のとおりである。平成28年5~7月;教材開発,9月;アメリカの高校を訪問して事例を収集する,10~11月;教材の評価をおこなう,平成29年1~2月;研究のまとめをおこなう。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した研究費の使途は,旅費(1名);30万円,教材開発のための物品購入費;35万円,資料整理謝金;5万円,予備費;10万円,である。
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