第一に,課題研究の展開に関する調査として,アメリカの科学教育における事例について文献分析を実施し,課題研究の特質を明らかにした。その結果,理科課題研究に対するSTEM教育の影響を確認し,科学技術やテクノロジーに関する学習内容の扱いが重視されていることが明らかとなった。この事例として,オレゴン州科学スタンダードとそれに沿った学習単元の分析をおこなった。エンジニアリング・デザインを導入した科学の学習事例を考察し,2つの特徴を抽出した。それらは,(1)エンジニアリング・デザインと連携させた学習は,自然科学の内容と密接に関連させた学習であること,(2)ストーリー性のある場面設定を工夫していること,である。課題研究とはまさに科学的探究であり,学習者自身が課題に対して追究を継続することが鍵となるが,生徒自身が追究を継続することには困難が伴う。その改善策のひとつとして,ストーリー性のある状況設定は,指導方法への示唆を与えると考えられる。 第二に,科学的素養獲得をねらいとした課題研究の内容と指導方法について検討した。課題研究に含まれる要素は,課題の特定,仮説の設定,仮説を検証するための実験計画の立案,結果の整理と結論の導出など多岐にわたる。これらの要素のうち,本研究では,実験計画立案における変数の制御に着目した課題研究モデルを提案した。探究のテーマを「金属パイプの音の高さは何に関係しているのだろうか」とした。3つの要因(長さ,太さ,種類)について比較し,8種類の金属パイプのうち,どれとどれを組み合わせた実験をおこなえばよいかを議論させた。実践の結果,考案した課題研究モデルでは,音の高低に関する実験をより詳細に行い,生徒の記述が深まる結果が得られた。関係する要因を正しく見いだし,実験を計画する力を高める手立てとして有効であることが示唆された。
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