ホロカソードランプを用いて金属の仕事関数を測定する新しい実験手法の開発を行い、その特性を評価した。 バンドパスフィルター(透過率の半値全幅 10 nm)で単色化した光をランプ陰極部分へ照射し、入射光波長に対する光電効果信号強度の変化から、セシウムの限界波長を求める実験を行った。測定データを、量子効率を勘案した光電効果信号強度の理論式にフィッティングさせ、限界波長の値を算出した。市販のホロカソードランプを使用した実験では、入射光波長に対して光電効果信号の強度が複雑な変化を示した。これは、放電を生じさせるためにホロカソードランプ内に封入してあるネオン原子の影響(励起ネオン原子による入射光吸収)と、放電そのものが信号検出に及ぼす何らかの物理的影響が原因と考えられた。この実験の結果からセシウムの限界波長が 654 nm と得られたが、このときのフィッティングの相関係数は0.6程度でしかなく、その信頼性や再現性には問題が残った。 そこでバッファガスの影響を回避するために、ランプ内のネオンを除去して真空に封じたホロカソーソランプを新たに用意して同様の実験を行った。その結果、光電効果信号は入射光波長に対して単調減少した。これは量子効率を考慮すると合理的な結果である。この実験データを用いてセシウムの仕事関数を求めた結果、688 nm という値を得た。このフィッティングの相関係数は0.98であって、信頼度は高い。今までに報告されているセシウムの限界波長(640 nm)とは 48 nm の差が生じた。この差の原因がランプの電極間に印加している電圧であると考え、印加電圧を20 V から 600 V まで変化させて限界波長の値を求めたところ、限界波長の値はほぼ一定であった。このことから、前述の差を生じさせた原因として、陰極を固化させるために加えられたセシウム以外の成分が陰極の主成分であるセシウムの限界波長に影響を与えたことが考えられる。
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