本研究では大型科学のリスクとガバナンスの大きな根幹となる、社会とのコミュニケーションを中心に研究を進めてきた。本研究ではその中でもふたつの論点に注目した。 ひとつは、非常に大型の予算を必要とするビッグサイエンス(100億円規模)、メガサイエンス(1000億を上回る規模)に対して、その実施や優先順位を決定する政策に、国民は納得をしているか調査をした。大型科学選定に現在、文部科学省および日本学術会議で使用されている7つの評価項目に注目し、この優先順位について国民および科学者の意見を集めた。その結果、国民、科学者ともに「研究者合意」をもっとも重視していることがわかった。研究者の合意によって日本学術会議で主要な大型科学のリスト(マスタープラン)が作成され、それをさらに実施可能性などの観点から文部科学省が優先順位を選定する(ロードナップ)手法は、評価項目に関わらず全体として研究者合意を根底にしており、全体としてうまく進んでいるといえるかもしれない。 しかし具体例として注目したメガサイエンスにおいては、「実施可能性」に関するいくつかの項目において研究者合意が形成されておらず、問題をひとつひとつ解決して議論を進める必要性があらためて確認されてた。評価項目では「実施可能性」は「研究者合意」と同列に並べられているが、こうした議論から「実施可能性」があっての「研究者合意」であることも浮かび上がってきた。 ふたつめに注目をしたのは、リスク、ガバナンスに関するコミュニケーションである。調査の結果、国民は計画段階から広い情報発信を望んでいるが実際はなかなかそのようにはなっていない点である。また、「予期しない」リスクに対しては硬直的な態度をとりコミュニケーションの知見が生かされにくいことも明らかになった。
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