危険事象を擬似的に体験することで事故・災害の防止につなげようとする「危険体験型教育」は、危険感受性の向上を図る教育手法として普及してきた。しかし、客観的評価に基づく教育の手順や規準、手続き等は未だ確立されておらず、その教育効果も十分に把握されていない。 2014年度に調査対象とした一般社団法人全国登録教習機関協会「危険再認識教育」に関しては、2015年度は中止にこそならなかった(当初の予定通り、2回開催)ものの、ここ数年は受講希望者の減少傾向が続いている。このことから、危険体験型教育に対する現場ニーズの落込みが推察されるところであった。しかし一方で、2015年度に実施した電力会社およびその協力企業を対象とした質問紙調査の結果からは、身近なリスクを直感的に理解することができる手法として、危険体験型教育に対する要望が未だ強いことが示された。質問紙調査における他の項目との関連からは、危険体験型教育に「積極的に取組みたい」と考える一方で、「予算が足りない」「教育に人員を割けない」「教育手法開発の余裕がない」といった理由から、実現に至っていないケースが多数存在している。 すなわち、事故・災害の防止のための教育手法としての危険体験型教育に対するニーズは依然として存在するものの、関連する様々な要因、例えば景気変動に伴う予算不足や労働力不足に起因する繁忙感などから、こうした手法を取り入れた安全教育の展開が抑制されている構図を伺うことができる。単独の会社組織が危険体験型教育を展開するための設備構築や手法開発等を行うことは、大きな負担となることは間違いない。そのため、設備を含め、公的あるは共同での教育機会の提供が望まれるところである。
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