研究概要 |
文献調査については,江戸末期から明治初期にかけての絵図や写真,1900年代以降の調査研究報告(人類学)を確認できた.それらによると基本的な構造はほぼ共通しており,室内環境については,氷点下の真冬でも薄着で居られるほど暖かいが,その一方で内部は薄暗く空気の質も劣悪だったということが明らかとなった. 建設については,上記文献調査を経て構法や規模を決定し,2013年5月28日から同年12月19日にかけて行った.建設には1人工5時間換算で凡そ100人工を要した.工事に携わった学生は,卒業研究で取り組んだ学生2名を中心に,十数名の有志である.建設したトイチセの規模は竪穴部分で3.4m×3.6m.構造は竪穴に4本の主柱を立て寄棟の屋根をかける.主な作業内容は,①用材加工,②土留め板設置,③主柱の掘っ立て,④桁の設置,⑤小屋組と入口の施工,⑥茅葺き,⑦炉の作成,以上7項目である.なお,土葺き作業は平成26年度に行うものとする.これは土の断熱性能を検証するために茅のみの状態で冬期の実測値を収集するためである. 過年度建設のチセ(改修前と後の両方)とトイチセの環境測定からは次のようなことがわかった.①室内各部位の内外温度差比較:1)改修前のチセ測定時にはあらゆる場所から外気が流れ込み非常に低温であったが,改修チセでは断熱性能の向上によって室内環境が著しく向上した.2)トイチセでは軒接地面の気密性に問題があるものの,外気が居住域に至るまでに距離があり,その間の温度上昇によって改修チセと同程度の室内環境が確保できた.②サーモカメラによる測定結果:前掲同様の結果をビジュアルなかたちで確認できた.③各部体温の測定:囲炉裏からの放射によって高温となる部分と低温環境に暴露されている部分があったが,平均体温は熱的中立域におさまっていた.但し,その局所的な不快感により落ち着いて過ごすことができない状態となっていた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画(建設作業)では,柱・梁の建設と壁のモックアップまでを目標としていたが,屋根の茅葺きまで終了した.残りの作業としては軽微な改修と屋根の土葺き・芝張り作業のみである.これは昨年度まで取り組んでいた「北方先住民族住居を用いた実践的教育プログラムの開発」を通したノウハウの蓄積があったがためであり,当初の計画以上に進展した大きな理由である.構造模型の作成による構法の理解,建設の段取りや建設作業など諸々の作業がスムーズに進み,参加学生数の増加(休日参加者は過年度建設時の3倍)もこれを後押しした. 建設資材についても,過年度のストックを有効活用でき好条件が整っていた.新規に購入した木材は全体の7割りを越えるが,過年度購入した建設足場用の丸太材を柱・梁材に流用することで,新規木材の納品を待たずに年度当初の早い段階から木材の加工作業に取り組むことができた.
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今後の研究の推進方策 |
建設作業については7月を目処に終了するよう計画を進めて行きたい.また,教材キットの開発は建設と平行して構想を練り,8月を目処に試作第1号を完成させたい.以降,試作と模擬授業を重ね,釧路高専の地域貢献事業「ジュニアサイエンスクラブ」の一テーマとして活用する.実施時期は12月中旬で,およそ35名の釧路市内の小中学生に模型造りを体験してもらう予定である. 環境測定としては土葺き・芝葺きが終了し葺き材が安定したところで複数回実施する.冬季に過年度と同様な環境測定を行い,土の断熱性能や輻射の効果等を比較分析するが,土を被せることで室温の観点からするとよりよい結果が得られることは容易に想像できる.しかしながら土で覆い気密性を上げる事で,薪の燃焼に伴う汚染物質の増加により室内環境がむしろ悪化する可能性も十分考えられる.間宮倫宗(林蔵)口述,秦貞廉 編の北蝦夷図説巻之二(1855)には「積雪いまだ解かざる前に穴を出て平生の家に居し如斯せざる時は身疾病をうくと云」とある.今後は,その要因がどこからくるものかも含め分析を進めて行きたい.なお,可能であるならば,北方先住民族の「住」に対する知恵をより深く理解するために,日本国内にこだわらず知見を広めて行きたい.
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