本研究では学習者はモデリング言語としてUMLを使用して、情報システム構築に関わるユーザや開発者の立場で、開発対象の業務やシステムをモデル化するために必要な講義を受ける。そして、教員の設定した課題に対して、演習を通じてその知識を確かなものにしようとしている状況を仮定する。本研究ではその学習活動の中でそれを支援する以下の機能を有するシステムを開発した。 (1)クラス図からインスタンス図を自動生成する機能:「二つのクラスとその間の関連」を表現したような簡単なクラス図からインスタンス図を作成する技術については既存研究がある。本研究では、数個のクラスおよびその間にある関連、集約、汎化などを含んだクラス図全体に対して有用なインスタンス図を作成することができた。 (2)クラス図とインスタンス図間にある矛盾を検査する機能:UML静的モデルの多重度を診断するシステムMultiplicity doctorを開発した。本システムの特徴は、クラス図-オブジェクト図間の矛盾の指摘(一貫性の診断)だけではなく、曖昧である箇所の指摘(明瞭性の診断)を行うことにある。一貫性と明瞭性の2軸によってモデルを評価することで、初学者がモデルを曖昧にして矛盾を解消しようとするのを防ぐ。 最終年度の実績:上述の(2)による診断結果が多数検出された場合に、一貫性を達成しようとすると明瞭性が下がったり、その逆が発生したりして、なかなか収束しない問題があった。そこで、診断結果による修正を効率的に行えるように、大まかな修正方針を案内するシステムを開発した。UML初学者6名を対象としてMultiplicity doctorと修正案内機能を追加したシステムを使用した比較対照実験を行った。その結果、本案内システムを使用した場合のほうがエラー数の下降が早く、収束期が訪れるまでの時間が短くなるという結果となった。
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