問題の本質を分析的に理解しようとする態度を身につけることができるよう、学習者が基本概念や物理法則を用いて力学系を科学的に解釈しモデル化することを支援する方法を提案した。 まず、力学知識を用いて力学系を解釈する過程をモデル化し、理想とする解釈結果を力学概念と系を構成する物体をノード、それらの間の関係をリンクとするグラフ構造で表現する方法を提案した。この構造を因果関係ネットワークと呼ぶ。次に、理想とする解釈にいたるように考えを導く学習支援システムを考案し、実現した。この学習支援システムは、次の3つの機能を持つ。①学習者に考えるきっかけを与えるために、力学系を解釈するのに必要となる可能性のある力学概念、法則、力などの要素を提示する。②物理則に則って論理的に思考することを促すために、力学系を解釈する過程で考えるべきことを表現するための手段を与え、頭の中で行われる内的活動を外在化する。具体的には、①の機能で提供した要素の中から必要と思うものを選択して、それらをリンクでつなぐことで表現する。③学習者が②の機能で表現した理解状態を、因果関係ネットワークと照合することで診断し、不適切な部分があれば再考するように助言を与える。 最終年度には、作成した学習支援システムを利用した評価実験結果を分析した。評価実験では、大学1年生を対象に1グループ2-4名で力学系を解釈してもらい、学習支援システムの操作履歴とグループ内での話し合いの音声を収集した。学習者は学習支援システムの機能を用いて力学系に働く力やその発生原因、力と運動の関係などを試行錯誤しながら考えており、因果関係に着目した分析を行わせることができた。考えたことを外在化し表現したことで、自らが矛盾点に気づいて修正することもできていた。一方で、不適切な部分を支援システムから指摘されても、力学知識の不足から自力で正しい解釈に至らない場合もあった。
|