研究課題/領域番号 |
25350298
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
畠山 卓朗 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (50351200)
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研究分担者 |
渡辺 崇史 日本福祉大学, 健康科学部, 准教授 (30410765)
土井 幸輝 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所, その他部局等, 研究員 (10409667)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 聴覚障害 / 高等教育機関 / 情報保障 / 合理的配慮 / ノートテイク / 教育工学 / 支援技術 |
研究概要 |
本研究は,聴覚障がいがある学生が大学などでの講義中に情報保障を受ける際,当事者学生が主体的に授業に参加できるような学習環境をつくりあげることを目標にしている. 従来より行われてきた支援では,聴覚障がい学生(以下,被支援者とする)は教室の最前列に着席し,その両側にノートテイカー(以下,支援者とする)が挟み込むように座り,支援者が交代で講義内容を筆記し,被支援者はノートに記された筆記内容をのぞき込むようにして情報保障を受けている.しかしこの状況では,講師の表情,提示されたスライドには目が向きにくい.さらに学友とは切り離された位置に座らざるを得ず,教室内に異空間が生まれる. 本研究では,デジタルペン技術と無線LAN技術を用い,上述の問題を解決しようとするものである.本年度研究で,タブレット端末(アンドロイドOS)をベースとしたシステムの第一次試作に取り組んだ.なお,システム開発に先立って,支援者と被支援者に対してインタビュー調査を行い,支援における問題点や要望事項などを明らかにし,システム設計に反映させた.第一次試作システムをもとに支援者および被支援者に試してもらい,当初の目的がほぼ達成できたことを確認するとともに,次年度に向けた新たな課題も明確になってきた. 研究成果は,国内ではリハビリテーション工学カンファレンス(いわて),国外ではAAATE2013(ポルトガル)において発表した.海外ではおもに手話通訳や補聴システム,あるいはパソコンテイクなどが一般的な情報保障として行われているが,研究者間でディスカッションを行い,手書きによる情報支援の必要性について意義があることを再確認した.とくに理数系の授業では文字情報だけでは不十分なこと,聴覚障がい学生だけではなく発達障がいの学生においてもノートテイクによる情報保障が有効であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ニーズ調査:従来からの支援における問題点としてはつぎのようなことが明らかになった.被支援者側においては,支援者の手や腕で筆記された情報が隠れてしまい困ることがある,級友と授業を一緒に受けたい,グループワークなどの際は支援者の存在がグループへの参加感を低下させるなどがあげられた.支援者側からは被支援者に情報を見やすくするため無理な姿勢を強いられるなどの問題点が浮き彫りになった. (2)システム設計・開発:タブレット端末をベースにしたシステム開発においては,Android OSの採用を決定した.システムは,小型タブレット端末2台,アノト方式デジタルペン2本,超小型無線ルータ1台,ドットパターンが印刷された用紙束,すべて合わせて1Kg程度の重量となり,従来からのパソコンノートテイク支援の約3分の1程度まで小型軽量化を実現でき,大学キャンパス内でシステムを運搬する際の可搬性に優れ,支援者の負担を大幅に減らすことができることができる見通しができた. (3)実証実験:2013年度に試作したプロトタイプシステムを早稲田大学障がい学生支援室の協力のもと実際に支援を受けたことがある当事者学生と支援をしたことがあるノートテイカーに試してもらい,その後,意見を聞いた.被支援者にたいしては,有効性(役立つか),信頼性(不安感はなかったか),そして期待感(将来,本システムで支援を受けたいか)を尋ねた.一方で,支援者にたいしては,操作性(思い通り操作できたか),信頼性(支援をする上で不安感はなかったか),そして期待感(将来,本システムを支援で使いたいか)を尋ねた.当初,システム・プログラムのバグ(ソフトウェア上の不具合)による不安定さが影響して,被支援者,支援者双方において「信頼性」が低い値を示したものの,有効性,操作性,そして期待感は非常に高い値を示した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)実証実験:2013年度に試作開発したシステムを,早稲田大学障がい学生支援室,日本福祉大学障害学生支援センターの職員,支援者,被支援者の協力を得て,教場での実証実験を行う.その過程で明らかになった改善事項は第二次試作システム設計に随時反映させる. (2)第二次試作システム開発:2013年度研究で試作したシステムでは,単一の被支援者の情報保障を想定しているが,2014年度では複数の被支援者を同時に情報保障できるシステムを試作する.その際,例えばそれぞれの被支援者がページを過去にさかのぼって自由に操作できる機能,つまり一方的に情報を与えられるのではなく,被支援者に情報操作の主導権を与え得るようなシステムを実現する. 2013年度の当事者学生にたいするインタビューの過程で,授業中に配布された資料をシステムに画像として取り込み,それに手書きデータと重ね合わせて情報保障できないかとの新たな要望が伝えられた.この要望事項の必要性が他の学生においても共通した課題であることが確認できたため,これを具現化するプログラム開発を実施する.なお,このことはすでに2013年度研究の中でプロトコル設計などについて検討を開始し,実現の可能性を確認した. 一方で,パソコンテイク(キーボード入力)との融合についても検討を行う.Bluetoothキーボードからの入力,音声認識などによる文字入力も検討の視野に入れる. (3)評価法検討:従来より支援者・被支援者間に内在する改善課題などについてGTA(グランディド・セオリー・アプローチ)を用いて検討を行ってきたが,2014年度研究では試作開発システムについてもGTAやセマンティック・デファレンシャル法などを用いたシステムの有効性評価の検討を行う.
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