研究課題/領域番号 |
25350376
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
直江 清隆 東北大学, 文学研究科, 教授 (30312169)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 技術哲学 / 人工物の機能 / 媒介 |
研究概要 |
25年度は、技術という実践的営為・知識の統合的な解明を念頭に、技術的知識の哲学的、倫理学的議論に重点を置き、人工物の持つ道徳性や技術者の責任を中心に研究を進め、成果を報告した。 (1)本研究では技術者からの聞き取りをおなっているが、25年度はこれまでおこなわれてきた聞き取りをもとに、文献資料との突き合わせを行い、問題点を抽出した。その際に重要となったのは、日本の技術発展との関連性をつける作業である。その一部を、原発事故に関連する研究として、リスボンで開催された国際技術哲学会で報告した。 (2)(1)を踏まえつつ技術哲学、技術者の責任に関する文献研究を進めた。技術的人工物の製作に関わる技術的、自然科学的知識に関する知識論的研究や、使用者の意図やエンジ ニアの課題がいかに人工物に埋め込まれ、倫理的意義を担うかについての技術哲学的な研究を進め、それと関連づけて技術者が複雑な技術システムの中でいかなる責任を負うかについて検討した。この点については、ミュンヘンでの独日統合学会でその試論を発表した。 (3)哲学研究が現場状況といかに切り結ぶべきかが、とくにこの分野において現在的に問われていることに鑑み、大学・高専・高校の教員と現場での技術倫理の教育について検討の機会をもち、上記の成果を教育面でいかに生かすかについて検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、技術の内的構造にまで踏み込んだ研究を目指し、(1)技術をめぐる多様な問題のうち技術的知識の問題に着目する技術的知識の知識論、(2)人工物が帯びる規範性の含意やそれを取り巻く暗黙知との関わりを検討し、技術における実践的知識のありかたを統合的に解明する規範論を研究目的の軸に設定した。25年度はそれぞれについて日本の事例に則した研究を進め、試論の形でではあるがとりあえずの成果報告を海外で行うことができたという意味で、研究は順調に進展していると言ってよい。 また、インタビューについては若干成果が表には出てきていないが、研究期間中には一定のとりまとめができるよう進行中であり、この面についても26年度以降の研究の基礎が進んだと理解している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き工学知の知識論、規範論の研究を進めるが、その際、工学的知識の専門的内容にではなく、それらが設計にいかに生かされいかなる工学的判断がなされたかの経路の記述に重点を置く。その際、水力発電など原子力以前の知識が原子力発電の技術にいかに生かされたかを具体的に跡づける作業を進めるが、必要に応じて、当該分野の技術者のほか、専門研究者や科学技術社会論の専門家に助言を求めることも検討している。 上記とあわせ、技術的知識について基礎構造の理論化をすすめる。その際、技術移転に際してい かなる知識が導入され、そのうちいかなる知識が顧みられなくなったか、従来の技術的知識や暗黙知がいかなる形で活用され、変容したかに焦点を当てる。こと暗黙知に関しては、有名なM・ ポランニーの暗黙知の概念のほか、Harry Collins の暗黙知、明示知の議論、中岡哲郎の集団とし て獲得される熟練、野中郁次郎の知識経営論などを参照する。 26年度にはオランダのトウェンテ工科大学でオランダとの共同セミナーをするほか、東アジア応用哲学会議で報告するなど、昨年と同様に海外の研究者との交流を進め、日本の技術のローカルな特徴を明確化する。27年度には成果をまとめ、再び国際技術哲学会ほかで報告する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は聞き取りの作業よりも、その周辺の文献との照合に重点を置いたため、聞き取り結果のテープ起こしのための謝金にゆとりが出た。ただし、作業自体に大きな変更はない。 本年度にテープ起こしのしゃきんとして繰り越し分を使うほか、当初の研究目的を充実させるため、この分野で技術者や職人に聞き取りをしている研究者からの情報提供などにも使用する予定である。
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