研究課題/領域番号 |
25350377
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤垣 裕子 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50222261)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 科学者の社会的責任 / 応答責任 / ユニークボイス / 選択肢の提示 |
研究概要 |
本研究の目的は、科学による社会への助言(科学の応答責任)が、ユニークボイス(統一見解)にむかって構築されてきた背景を追い、国際比較を通してユニークボイスにこだわる日本の傾向が特異なものであるのか一般的なものであるのかを考察することである。 本年度は、日本における助言のありかたの現状について、日本学術会議の2つの分科会「東日本大震災後の科学と社会との関係を考える」分科会および「科学者からの自律的な科学情報の発信の在り方検討委員会」課題別委員会における議論の状況の参加型観察をおこなった。どちらの委員会でも「ユニークボイス」にこだわるあまり情報発信が遅れることへの懸念が表明され、何らかの対策が模索されていることが示唆された。とくに後者の委員会では、ユニークボイスではなく「意見の分布」が公開される必要性が吟味され、その内実について検討されていた。具体的には、意見の分布を考える際、社会が取るべき選択肢の分布を示すときに、1)生のデータ、2)データの解釈、3)データを基礎とした選択肢の決定、4)選択肢の提示、5)選択肢のなかの選択に対する専門家の意見の分布、などの階層性が詳しく吟味されていた。 また国際会議の発表では、東日本大震災における科学者の社会的責任をめぐる言説を紹介し、日本において「市民を安心させることが科学者の責任か」「行動指針となるただひとつの答えを用意するのが科学者の責任か、それともいくつかの選択肢を示して国民に選んでもらうのが責任か」についての議論を紹介した。フロアからは、「科学者」とひとくくりにするが、その中にいくつもの専門領域があるはずで、それらをどう扱うか、専門家間の架橋と責任論をどう扱うか、「市民」とひとくくりにすることの功罪(住んでいる地域の差、コミュニティの差、個人差)などの課題が指摘された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書を書いた当時は、ユニークボイスか選択肢かの問いを共有する研究者をそれほど見出すことができなかったのに対し、平成25年度は日本学術会議の活動を通し、似たような問題意識を共有し、現代の課題として真剣に取り組む理系の研究者と共同することができたため。本申請書では主に日本における科学の社会への助言がユニークボイスにこだわる歴史的背景を追うことによって明らかにすることを試みていたが、それらの反省的視点に基づいて、今、現在、その日本の「助言」のありかたを変えようとする試みに立ち会えたことは、本研究にとって大きな収穫であると考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
科学における社会への助言(科学の応答責任)のありかたをめぐって、現在日本国内で動きつつある研究者自身の助言のありかたへの模索を今後も観察し続けるとともに、これまでの助言のありかたがどのような社会環境や科学者自身の倫理的規範によって形成されてきたのかを明らかにする。同時に諸外国における助言のありかたを調査する。また不確実性のからむ課題についての助言の特徴を考える。助言のための異なる分野間の知識統合とその組織化のありかたについて考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究期間中に、次年度(平成26年度)に海外出張を2回行わねばならないことが判明し(しかも、うち1回の国際会議は、ブエノスアイレスであり、渡航費が比較的高めである)、旅費以外の出費をおさえて、次年度に繰り越すことを計画的に考慮したため。 平成26年度は、海外での助言のありかたの調査と、本研究の中間まとめを国際会議で報告することを目的として、欧州(ウィーンとパリ)および南米ブエノスアイレスでの国際会議に参加の予定である。
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