研究課題/領域番号 |
25350377
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤垣 裕子 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50222261)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 科学者の社会的責任 / 応答責任 / 助言 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、科学による社会への助言(科学の応答責任)が、ユニークボイス(統一見解)にむかって構築されてきた背景を追い、国際比較を通してユニークボイスにこだわる日本の傾向が特異的なものであるのか一般的なものであるのかを考察することである。 平成27年度は、戦後70年の科学技術政策史を振り返る論考を執筆するとともに(藤垣、戦後70年と科学政策、2015)、長崎で開催された第61回パグウォッシュ会議で「科学者の社会的責任の現代的課題」について発表をおこない、「科学者の社会的責任」について議論するWGにおいて、科学的助言のありかたについての議論を深めることができた。 その結果、湯川秀樹の時代以後、原子核エネルギーを解放してしまった原子核物理学者の考える科学者の社会的責任として、1)行動する、2)助言する、3)自省する、の3つの回路が存在していることが明らかとなった。1)は職業責任と人道性にかかわり、たとえば原爆に反対するのは職業責任によるとする考え方と、専門家としての責務ではなく人間として人道的側面(Humanities)から反対するとする考え方に二分される。2)は本研究でも追及してきた責任の果たし方である。3)は1)のような運動とは異なり、公共空間での原爆の使用をめぐる一般のひとびとの議論に対し、科学者にできることは何か、という問いになる。 こうした原子核物理学者の科学者社会的責任に対する考え方は、日本における科学者の助言のありかたに少なからず影響を与えたと考えらえる。今後は、これらの分析をすすめ、いずれは単行本としてまとめることを考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究成果をまとめて平成27年度のパグウォッシュ会議に報告し、世界の科学者たちと議論できたことは、本研究の今後の進展に大きな影響をもたらしたと考えている。 まず、パグウォッシュ会議は1955年のラッセル・アインシュタイン宣言をもとに1957年に第1回が開かれているが、発足当時の物理学者たちを知っている老物理学者に初期の精神を聞くことができたのは収穫であった。そのことによって、1957年と2016年とで、何が不変のテーマで何が変わりつつあり、今、何を考えなくてはならないのかが明らかとなった。この知見をもとに「科学者の助言」を捉えなおすことは、本研究に新たな視点をもたらすものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究であきらかになりつつある科学者の社会的責任の3つの回路:1)行動する、2)助言する、3)自省する、のそれぞれについて分析を深め、単行本としてまとめることが今後の目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に第61回パグォッシュ会議(長崎)に参加・発表する機会を得、「科学者の社会的責任~科学的助言をめぐって」について、より精緻な分析が必要であることが明確となった。そのため、次年度に追加の分析を行うことを決め、次年度使用額を確保した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度には別の大きな国際会議があるので、発表のために旅費として使用する。また新たに生じた追加分析のための資料の収集にあてる。
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