本研究の目的は、科学による社会への助言(科学の応答責任)について分析することである。平成25年度は、日本における助言のありかたの現状について、日本学術会議の2つの分科会「東日本大震災後の科学と社会の関係を考える」分科会、および「科学者からの自律的な科学情報の発信のあり方検討委員会」課題別委員会における議論の状況の参加型観察をおこなった。その結果、どちらの委員会でも科学者の「ユニークボイス」にこだわるあまり情報発信が遅れることへの懸念が表明され、対策が模索されていることがわかった。とくに後者では、ユニークボイスではなく「意見の分布」が公開されることの必要性が検討された。具体的には、社会が選択を行う際の根拠となる1)生のデータ、2)データの解釈、3)データを基礎とした選択肢の決定、4)選択肢の提示、5)選択肢の選択に対する専門家の意見分布の5つの層における分布である。 平成26年度は、とくに東日本大震災の事例分析をもとにした書籍の編集をおこない、平成27年度に出版した。さらに平成27年度は、戦後70年の科学技術政策史を振り返る論考を執筆するとともに、長崎で開催された第61回パグウォッシュ会議で「科学者の社会的責任の現代的課題」についての発表をおこなった。パグウォッシュ会議の「科学者の社会的責任」WGでは、湯川秀樹の時代以後、原子核エネルギーを解放してしまった原子核物理学者の考える科学者の社会的責任として、1)行動する、2)助言する、3)自省する、の3つの回路が存在していることが明らかとなった。 最終年度はこれらの成果をまとめた論文を発表し、次なる課題として科学者の社会的責任の日欧差を検討する必要性があることを確認した。
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