研究課題/領域番号 |
25350380
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
城地 茂 大阪教育大学, 学内共同利用施設等, 教授 (00571283)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 格子乗算 / 関孝和 / 勘定方和算期 / 『九章算法比類大全』 / 『大成算経』 / 『算法統宗』 / 西アジア / インド |
研究概要 |
格子乗算は、関流和算の集大成とも言える『大成算経』(関孝和・建部賢明・建部賢弘、1710年)にも「鋪地錦」として記述があり、「勘定方和算期」(1674年-1780年)にも勘定方の武士である和算家たちに用いられた計算法である。格子乗算は、西アジアもしくはインドが起源と考えられ、また、江戸時代には、ネイピアの骨(または計算尺、1617年)としても日本へも伝わっている。そのため、伝記に謎の多い関孝和(1642/5?-1708)は西洋数学を何らかの方法で学習していたのではないかという異論も現れたほどである。 そこで、関孝和が学習したであろう中国数学のなかに格子乗算が伝わっていないかを検証した。その際、関孝和の業績の一つである高次方程式を立てる方法、すなわち点竄術へと続く『周髀算経』『九章算術』以来の北中国数学の系譜と高次方程式の解の数値を求める方法、すなわち開方術も含めた計算法に強みを持つ南中国数学の系譜に分けて考察することとした。 その結果、北中国数学には格子乗法が使われていないことが分かった。これは、西アジアで格子乗算が生まれた年代(9世紀頃?、ヨーロッパへは12世紀に伝播)にもよるものと考えられる。南中国数学が優勢となった明代(1368年-1644年)には中国に伝わったようである。中国には元々、九九があるためあまり重視されなかったという面もあったと考えられる。『九章算法比類大全』(呉敬、1450年)に「写算」として記述されていた。これが、「鋪地錦」として『算法統宗』(程大位、1592年)を通じてもたらされていたのである。このように、格子乗算は、関孝和へは西回りではなく、東回りで伝わっていたことが、格子乗算の図を追跡することによって実証できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
格子乗算の伝播を通じて世界文明と日本近世数学の伝播、影響を解明することについては、以下の点により、おおむね順調に進展していると自己評価した。 1 平成25年5月に、日本科学史学会年会において、「格子なき格子乗算」と題して口頭発表を行い、科学史の各分野の専門家と世界的な伝播について意見交換ができたこと。 2 平成25年7月に英国・マンチェスターで開かれた第24回国際科学史学会に参加し、北中国数学の基本的な資料としての『周髀算経』を題材に、The application of Zhoubi Suanjing in Japan,Open Square Root Method in Ancient Chinaと題して口頭発表し、北中国数学の基本的性格について中国など世界各地の数学史家と意見交換し、その性格について意見を共有することができた。また、こうして報告者の「勘定方和算期」という概念が肯定され、黄Xunwei(2013)「江戸時期 和算發展之分期」『中華科技史學會學刊』18:24-33に引用されたこと。 3 平成25年8月に京都大学数理解析研究所の数学史集会において、成果を「格子乗算の起源」として口頭発表した。また、『数理解析研究所講究録』に「格子乗法の日本への影響」として論文にまとめられ、平成26年度に刊行予定であること。 これらの成果に加え、こうした成果を発信する方法として、報告者が本務校で実施している通信回線を使い、奈良教育大学、京都教育大学との双方向授業を試行することができたこと。
|
今後の研究の推進方策 |
勘定方和算家には、格子乗算が東回りで伝播していたが、近世日本の他の時代もしくは異なる社会階層の和算家には、どのように伝わっていたのかを具体的に実証する。そのため、南中国数学の起源の一つと考えられる『楊輝算法』(楊輝、1275年)の写本を追跡し、日本への伝来過程を解明する。南中国数学の日本への伝播過程を解明するためにソロバンの伝播経路の解明に努める。 平成25年度には、沖縄へ現地調査を行い、通過儀礼である「タンカーユーエー」において梁上一珠梁下五珠の旧式日本ソロバンを用いることが分かったが、このソロバンがどのように伝播したのか、引き続き解明に努める。大隅諸島では、明治維新後、土佐地方より伝わった例があるが、沖縄本島やさらに西の宮古列島や八重山列島での状況の調査を継続する。また、暦算の隣接領域である術数の分野の書籍と南中国数学書の関連を解明する。『三才発秘』(陳Wen、1697年)が西洋数学とどのように邂逅したのか調査を行う。成果発表、意見交換の機会として、平成26年5月の日本科学史学会年会、6月の日本数学史学会年会、8月の京都大学数理解析研究所の数学史集会を予定している。
|